研究課題
本年度はEMTと癌幹細胞表面抗原発現パターンの検討を行った。TGF-β投与によりEMTを導入された肝癌細胞株では、幹細胞表面抗原であるCD133、CD56、CD90の発現亢進が確認された。3D培養系では、EMT導入により極性の消失が確認された。このことから癌幹細胞における表面抗原は上皮様および間葉様特性により変化することが判明した。臨床背景の判明している肝細胞癌244例、139例のマイクロアレイデータを用いた解析では、間葉様特性を有する肝細胞癌症例は上皮様特性を有する肝細胞癌症例に比較してZEB2、TGF-βの発現が亢進し、有意に転移例が多く予後不良を示していた。上皮様肝細胞癌ではEpCAM高発現例が有意に予後不良であり、間葉様肝細胞癌症例ではCD56高発現例が有意に予後不良であった。全症例の検討ではEpCAMおよびCD56の発現は予後不良予測因子となっておらず、幹細胞表面抗原は上皮間葉系移行の影響を受けることが臨床的に示された。上皮様肝癌細胞株では、EpCAM陽性細胞、CD133陽性細胞で自己複製能、遊走・浸潤能が高かった。一方間葉様肝癌細胞株ではCD56陽性細胞、CD90陽性細胞で遊走。浸潤能が高かった。間葉様肝癌細胞株では自己複製能は低くスフェロイド形成はほとんど観察されなかった。このことから上皮様肝癌での特性と間葉様肝癌での癌特性の違いが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、肝細胞癌細胞株を用いて、2D培養系、3D培養系におけるEMT誘導モデルを確立、上皮様および間葉様特性における癌幹細胞表面抗原発現パターンの同定と発現パターンごとの細胞特性の評価を目的にしている。培養系でのEMTと幹細胞表面抗原の関係の評価、臨床サンプルのデータを用いた検討はすでに終了した。また、EMTと癌幹細胞特性の検討に関しても自己複製能、遊走・浸潤能を終了している。ヌードマウスモデルを用いての腫瘍形成能評価に関しては現在準備しており、準備完了次第取り掛かる予定である。以上からおおむね順調に進展していると考えられる。
平成28年度以降は、癌幹細胞表面抗原発現パターンごとにHDAC阻害薬とDNMT阻害薬の感受性について検討する。そのうえで、高感受性群と低感受性群をChIP-Seq法およびマイクロアレイ法にて比較検討し感受性に影響を及ぼす因子を検討、より効果的な抗癌剤の組み合わせを同定することを計画している。HDAC阻害剤、DNMT阻害剤感受性と癌幹細胞表面抗原の関連性の検討では、2D培養系、3D培養系を用いて検討を行う。上皮様特性を有する細胞の培養液にHDAC阻害剤を加え投与前後での変化を評価する。特に癌幹細胞表面抗原の発現量、極性の変化に注目する。また、自己複製能、遊走・浸潤能、腫瘍形成能を評価し癌幹細胞性の変化の検討も行う。間葉様特性を有する細胞に関しても同様の検討を行う。また、癌幹細胞表面抗原発現パターンによるHDAC阻害剤、DNMT阻害剤の感受性の評価では、上皮特性群においてEpCAM陽性群、CD133陽性群、EpCAM陰性CD133陰性群の3群に細胞を分離し、HDAC阻害剤の感受性を評価する。さらに、上皮様特性群におけるHDAC阻害剤高感受性群と低感受性群、間葉様特性群におけるDNMT阻害剤高感受性群と低感受性群を用いて検討する。解析はChIP-Seq法とマイクロアレイ法を用いて検討する。ChIP-Seq法に関しては、細胞の固定と溶解、クロマチン断片化、免疫沈降、DNAの精製までの工程を行い以後の作業は業者へ委託して行う。ChIP-Seqの結果とマイクロアレイの結果を解析し感受性に関与する因子を同定する。
平成27年度では当初予定していた癌幹細胞特性の機能評価の一部が未実施である。特に腫瘍形成能をヌードマウスを用いて評価する予定であったが、準備に時間がかかり行えていない。その為機能解析に必要な助成金が次年度使用額として生じました。
平成28年度では当初より未実施となっている癌幹細胞特性の機能評価を行う予定である。
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