研究課題
B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus: HBV)およびC型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus: HCV)のゲノムを、新規シークエンス技術を用いて、網羅的かつ詳細に解析することにより、従来の手法では明らかにすることのできなかった単一個体内での遺伝子変異(quasispecies)の状態から治療反応性、薬剤耐性機序を解明した。HCVに対する新規DAAに耐性となるウイルス変異の出現頻度を明らかにし、単一個体内で出現頻度および分布につき検討した。1、インターフェロン(Interferon: IFN)+DA治療では、再増殖時に出現したウイルスは、治療前のmajor populationを形成する、いわゆる「野生」株が、薬剤耐性部位のアミノ酸変化を生じたものであった。しかも薬剤耐性例では、ウイルス再増殖時にはquasispeciesの構成変化も認めていた。また、耐性例でも薬剤の暴露がないと6ヶ月の経過で、薬剤耐性獲得部位のアミノ酸は野生型に復するが、これ以外の変異はもとには戻らず、ウイルス増殖時のquasispeciesの構成がそのまま保たれていた。2、一方、「インターフェロンフリー」の治療では、高感度法であるdeep sequencing法による解析で、治療前の微量のNS5A-Y93変異や、微量に存在したL31V cloneにY93Hの付加が観察された。治療後の主体cloneは、いずれの個体内でも治療前に存在していた微量cloneと高い相同性を有し、分子系統樹により遺伝的変異距離の解析では、治療前に存在したわずかなcloneが、治療不成功時の主体と極めて近い距離に位置することが判明した。したがってIFNの使用の有無により薬剤耐性獲得の機序が異なることが示された。HBVについては平成28年度以降に解析予定である。
2: おおむね順調に進展している
現在、HCVに対する抗ウイルス療法の開発が著しく、実診療でも急速に治療が変遷している。とくにDAA治療では、高い安全性と効果を示しており、現在治療の主体をなしている。しかし、その一方、ウイルス学的不成功例も見られ、しかも、一旦ウイルス学的に不成功となると、多剤耐性ウイルスの出現が危惧されている。このようなウイルスは、現在のDAAに対し高度耐性となるのみならず、今後上市される新規DAAに対しても耐性を持つことが予測される。したがって、現在の、基礎的・臨床的課題として、耐性ウイルスの出現頻度やメカニズムを解析・検討することは喫緊の問題として重要である。しかも、肝炎ウイルスは、単一固体内ではquasispeciesの状態で存在することから、新規シークエンス技術であるdeep-sequencing法を用いるべきと考えられる。そこで、本研究ではまず、社会的要求度の高いC型肝炎の研究に主体を置き、現在進行形で治療が行われている治療法についての検討をおこなった。この結果、実臨床にも応用可能な成果を見出すことができた。しかし、世界的にはB型肝炎患者も多く存在し、B型肝炎に対する研究も必要であることから、今後はB型肝炎研究にも力を入れて行く予定である。また、本年度の研究により研究手法が確立していること、多くの臨床検体と診療成績の集積が済んでいるため、今後B型肝炎研究についても予定通りの進行が見込まれる。
C型肝炎については、上述のようにある一定の成果が得られている。しかし治療は現在進行形で進捗しており、今後症例の蓄積により新たな知見が得られる可能性もある。また今後、新規治療法が開発され、新たな薬剤が上市される可能性が高いため、これらについても検討予定である。また、これらの分子機構を解明するためには、HCVレプリコンを用いて増殖能、薬剤感受性を解析する。すなわち、臨床的に血中HCV-RNA量、新規DAA製剤の標的部位であるNS3、NS5A、NS5Bも遺伝子領域変異がHCV増殖にもたらす作用を検討する予定である。B型肝炎については、HBVの遺伝子変異は核酸アナログ治療例の経年的解析により行う。HBs抗原は、HBVのS領域およびpre S領域から産生されることから、この領域の遺伝子変異がHB抗原量にも関連する。またHBV pre S2変異は肝発癌と関連することから、この領域の遺伝子変異とquasispeciesの状態を中心に解析し発癌機能の解明を行う。さらにHBV関連肝癌からはHBV cccDNAの抽出が可能であるため、最近可能となった、レーザーマイクロダイセクション法で微小組織からのDNA抽出により、遺伝子変異とcccDNAのquasispeciesの状態解析を行い病態や肝発癌との関連を明らかにすることを試みる予定である。
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