研究実績の概要 |
D-galactosamine誘発急性肝不全モデルにおける歯髄由来幹細胞由来培養上清(SHED-CM)の効果について今年度は以下のような知見を得た。 (1)Proinflammatory cytokineとしてcontrol(DMEMのみ、およびFibroblast由来培養上清)と比較して肝内におけるTNF-α,IL-1β,IL-8,iNOSの発現低下、炎症抑制性サイトカインであるTGF-β,IL-10の有意な発現上昇が認められ、また、そのメカニズムとしてはM1→M2へのマクロファージ偏向性に関与するCD206,Arginase-1の発現上昇の関与が推察された。また、同時にVEGF,SCF-1,IGF-1の発現上昇も認められ、肝再生にも深く関与することが示唆された。 (2)免疫組織学的検討では、CD11b陽性マクロファージを検討すると、多くはproinflammatory cytokineであるiNOSを産生する細胞であり、それに対してSHED-CM群では多くがM2マーカーであるCD206を、また同時に炎症抑制性サイトカインであるIL-10を共発現する細胞であることが見出された。Ki-67陽性細胞はSHED-CM群においてcontrol群と比較して有意に増加、またこれらの多くが肝幹細胞マーカーであるAFP,CK-19,Dlkを共発現していた。 (3)本急性肝不全モデルにおけるSHED-CM中の有効な因子につき、サイトカイン抗体アレイを行うと、controlであるFibroblast由来の培養上清に比べ、19の液性因子において1.5倍以上の発現上昇が認められた。上記の発現上昇している液性因子のうち、MCP-1を中和することで抑制されることがわかった。ただ、反対にMCP-1のcontrolへの添加だけではM2への誘導が行われず、他の因子がさらに必要であることが示唆された。また、MCP-1を抗体で除去したSHED-CMを急性肝不全ラットを用いてin vivoで検討を行うと、抗体非除去群と比較して生存率の低下、炎症性サイトカインの上昇、抑制性サイトカインの低下、M1→M2への偏向性低下、各種再生因子の低下が認められた。 上記の結果を投稿、受理され、現在掲載準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の計画としては①今年度の研究結果よりMCP-1がSHED-CMの効果に必要条件であることはわかったものの、同時に十分条件ではないことが判明した。今回判明した発現上昇液性因子を中心に炎症抑制、再生促進のための付加すべき因子の検討②本モデルにおけるマクロファージの他の浸潤炎症性細胞(樹状細胞、NK細胞、NK-T細胞、CD4、CD8-T細胞、B細胞、regulatoryT細胞)の動態の検討、③本モデルにおける肝再生ではいかなる幹細胞(骨髄由来、肝前駆細胞由来、成熟肝細胞由来)が、どの程度寄与しているのか、④将来の臨床応用を見据えたD-galactosamineモデル以外でのSHED-CMの有用性(CCl4,anti-Fas,P.acnes+LPSなど)の検証などを順次行っていく予定である。
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