研究課題
C 型肝炎ウイルスの薬剤耐性変異とヒトゲノム多様性の相関の検討に際し、オリゴヌクレオチドプローブ(Invader法)を用いたウイルス変異頻度測定法を確立した。この方法を用いることによって従来のダイレクトシークエンス法に比較して迅速、高感度に変異型ストレインの検出、変異型頻度の測定が可能となった。この測定方法を用いて、HCV1b型ウイルスのNS3,NS5A領域の薬剤耐性変異について測定を行い、頻度の高い変異を検討したところ、NS5A Y93の部位に治療前(自然発生的)に変異型(Y93H)を有する頻度は約23%と高く、他のポジションでは頻度は比較的稀であった。HCV1b型ウイルスのNS5A領域配列による系統樹解析ではY93Hの分布は特定の分枝に限局せず散発的で、分子進化との関係は示されなかった。また、NS5B領域にも自然発生的薬剤耐性変異が認められた。SNPアレイタイピングデータを既に有する402例(Y93野生型335例、変異型67例)について変異と関連する遺伝子多型をゲノムワイドに探索したところ、ゲノムワイドレベル(p < 1.07×10-7)で有意なSNPは認められなかったが、suggestiveなレベル(p < 1×10-4)のSNPを89個同定した。また約1,300例において過去にC型肝炎の病態進展や治療応答性について関連性が報告されているいくつかのSNPとY93変異との関係をみたところ、ウイルスの持続感染やインターフェロン応答性との関連性が報告されているIL28B遺伝子多型との関連性を認めた(p = 1.6x10-4)。Y93変異は、ウイルス量(p = 2.4x10-5)、ISDR変異(p = 1.9x10-3)、ALTレベル(p=0.016)とも有意な関連性が認められた。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の計画として、1. HCV ゲノム変異の検出、2-1. ゲノムワイド SNP 関連解析、2-2. 候補遺伝子 SNP 関連解析を予定していた。1.については迅速で、1-2%の頻度の変異型も検出可能という高感度の新規測定法を確立し(PLoS ONE 2015)、これまでに2,000例を越えるアッセイを行ってきた。2-1については1.で確認できたNS5A領域に自然発生的薬剤耐性変異Y93の変異についてゲノムワイド SNP 関連解析を行いsuggestiveなローカスが同定された。NS3領域にも同様の変異部位を認めたためこれについても今後HCVゲノム変異の判定を進めたのちゲノムワイド SNP 関連解析等を行う予定である。2-2.についてはY93変異と候補遺伝子としてこれまでに報告されたC型慢性肝炎と関連するSNPとの関連解析を行った結果、IL28BのSNPとの関連性が同定され、また、いくつかの宿主因子、ウイルス因子との関連も認めた。計画に挙げたgene set analysisは現時点では未実施であるが、さらに多くの血清検体を用いてHCVゲノム変異の解析数を増やすことで、関連解析の検出力を高めることを平成27年度は優先させた。以上より、本研究課題の進捗状況についておおむね順調に進展していると自己評価した。
NS5A領域Y93変異のゲノムワイドSNP関連解析については過去に別のプラットフォームでSNP解析済みのサンプルも含めて血清試料が利用可能なものについてウイルス変異タイピングを進め、統合解析することでサンプルサイズの増大を図るとともに、上位のSNPについては別サンプルでウイルス変異とSNPタイピングを行って候補SNPの絞込みを行う。またNS5B領域の自然発生的薬剤耐性変異やその他の領域の変異についても今後選定・解析を進めてゆく。gene set analysis等についても実施してゆく。HCVコア領域のアミノ酸置換が治療応答性や病態進展に関係するだけでなく、IL28B遺伝子多型と関連しているという報告があるように、自然発生的薬剤耐性変異とそれに関連するヒト遺伝子多型にはC型慢性肝炎の臨床病態に多面定に関与している可能性も考えらえられる。それらの臨床的意義を明らかにするために、SNP局在遺伝子の機能から推定される影響の確認とその機序の解明、DAAs治療効果への影響、肝炎の各種病態(線維化、発癌、炎症等)への影響等を検討してゆく。以上、概ね当初の計画(平成 28 年度以降)に則って研究を推進する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
PLOS ONE
巻: 10 ページ: e0130022
doi:10.1371/journal.pone.0130022