研究課題
前年度にオリゴヌクレオチドプローブ(Invader法)を用いたウイルス変異頻度の迅速、高感度な測定法を確立した。C 型肝炎ウイルスの薬剤耐性変異とヒトゲノム多様性の相関の検討に際して、各種直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAA)療法実施症例のHCVウイルスNS3,NS5A,NS5B領域の薬剤耐性変異を本法を用いてそれぞれの変異に対してプローブを設計し、変異型頻度の測定を行ったところ、本法では1-2%の変異型ウイルスを検出可能で、ダイレクトシークエンス法のそれに比較して非常に高感度で、本法を用いて治療効果・再燃と薬剤耐性変異(Resistance Associated Variants,RAVs)の関係を詳細に検討することができた。また、治療前に頻度の高い変異を検討したところ、NS5A 領域のRAVsにおいてY93H変異型を有する頻度は約22%と高く、また、NS5B領域のC316Nも高率に認められ、これらは自然発生的RAVsと考えられた。約900例のHCV1bを有するC型慢性肝炎症例においてC型慢性肝炎の臨床データや宿主の遺伝子多型とウイルス変異の関係をみたところ、Y93変異はウイルスの持続感染やインターフェロン応答性との関連性が報告されているIL28B遺伝子多型との関連性を認め、さらにウイルス量や、ISDR変異の有無、ALT値と有意に関連性しており、慢性肝炎の病態への関与が示唆された。一方、NS5B領域のC316Nはコア領域のアミノ酸変異と有意な関連性が認められたが、IL28B遺伝子多型との関連性は認められなかった。SNPアレイタイピングデータを既に有する症例を用いて自然発生的変異とヒトゲノム多様性との相関を検討したところ、コア領域の変異においてゲノムワイドレベルで有意な関連性を有するローカスを同定しえた。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度以降の計画として、1.HCVゲノム変異の検出に関しては解析領域の拡大を行い、NS3領域とさらにコア領域を新たに解析対象に追加し、プローブを設計してInvader法によるウイルス変異の解析を行った。領域内で自然発生的変異と考えらえる部位について、解析症例数をさらに増加させたうえで、2.HCVゲノム変異とヒトゲノム遺伝子多型の関連解析を行い、関連性が高いと思われるHCVゲノム変異とヒトゲノム遺伝子多型については3.同定されたSNPのreplicationと機能解析を行い、統計学的に妥当性を検証した。機能解析については現在実施中である。4.同定されたSNPのDAAs治療効果への影響評価についてはダクラタスビル・アスナプレビル併用療法とIL28B遺伝子多型について評価を行っている。5.HCVの変異とそれを制御する宿主の遺伝要因のC型慢性肝炎の病態進展に対する影響評価については、コア領域の変異とヒトゲノム遺伝子多型の間に興味深い関連性を認めたため、今年度は解析サンプル数を増加させてこれらの相互作用の影響の評価を行うことを予定している。以上より本研究課題の進捗状況について概ね順調に進展していると自己評価した。
今後ヒトゲノム多様性と関連するHCVウイルス変異とその候補についてさらにウイルス変異解析の症例数を増加させてヒトゲノム多様性との関係を明らかにしてゆく。その際、Imputationやgene set analysis、 eQTL analysis等を併用することで関連性の検出感度を高める工夫を行う。また、ウイルス変異を環境要因の一つと見立てて、遺伝要因と環境要因の相互作用が、C型慢性肝炎の病態を制御している可能性について検討していく。医学的に重要と思われる新たな知見に関して論文化や学会発表を積極的に行っていく等、最終年度の計画に沿って研究を進めていく予定である。
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