研究課題
C型肝炎ウイルス (HCV)関連肝細胞癌の癌部においてProtein kinase R (PKR)の発現・活動性が増加しており、さらに増加したPKRがERK1/2, JNK1のシグナルの活性化によりc-Fosおよびc-Junの発現増加、それに伴う細胞増殖促進作用をにより癌増殖を促すことを明らかにした。同作用をin vivoモデルで検証するため、肝細胞癌株Huh7をヌードマウスに皮下移植した皮下移植癌モデルを作成した。腫瘍の生着を確認できた移植10日後よりPKR阻害剤を連日腹腔内投与し、コントロール群と比べ腫瘍の増殖に変化があるか検討した。PKR阻害剤の投与により阻害剤投与5日目の腫瘍容積がPKR阻害剤投与群でコントロール群に比べて縮小した。またPKR阻害剤の投与量を変えて投与し、各投与量別に比較したところ、PKR阻害剤の用量依存的に腫瘍増殖抑制効果が見られた。また、PKRで活性化されるJNK1が肝細胞癌におけるDNAメチル化に関与するという報告があることからPKRによる肝細胞癌のDNAメチル化などエピジェネティックな機序について検討した。PKRのノックダウンによるDNAメチル化頻度が変化する宿主遺伝子をビーズアレイを用いて網羅的に解析したところ、DNAメチル化に関わる酵素の発現増加が見られた。また複数の遺伝子のDNAメチル化頻度が変化しており、PKRによる複数の遺伝子のメチル化が肝発癌に関わる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度はまず、PKR阻害による抗腫瘍効果をin vivoで検証することを目的に解析した。その結果、肝細胞癌移植ヌードマウスにおいて、PKR阻害薬による腫瘍縮小効果が明らかとなり、結果のconfirmができたと同時に、再現性が確認された。今後、検討に使用したマウスの組織を用いて、PKR阻害により変化する遺伝子群を解析する予定である。また、DNAメチル化への影響も明らかとなり、PKRが単にMAPK経路を介した腫瘍増殖促進作用だけでなく、発がんに寄与するDNAへのエピジェネティックな影響も併せ持つことが示唆され、PKR類縁蛋白であるPKR-like endoplasmic reticulum (ER) kinase (PERK)も同様な癌促進、発がん作用を持つことが示唆される。研究はin vivoの検討に、かなりの時間を必要としたため、in vitroの検討が今年度は十分できていないいないが、データーの再現性を確認できたことは重要な成果となった。今後、in vitroの検討を急ぐことで予定している進捗を達成できると考える。
昨年度でPKRの腫瘍促進効果がin vivoにてconfirmできたことから、今後、PKRとその類縁蛋白であるPERKの肝細胞癌における相互作用、PERKと肝細胞増殖との関係、さらにC型肝炎ウイルスの感染やそれに伴う肝炎による細胞ストレスとPKR、PERKとの関係についてみていく。さらに慢性炎症のみならず、肝移植を想定した急性拒絶反応、血液再潅流による虚血など、いろいろな細胞ストレスとPKR、PERKとの関連について研究していく。また、PERKのキーファクターと予測しているインフラマソームについて、学内の免疫学教室、病理学教室のスタッフに協力を得ながら、肝細胞および免疫細胞における細胞内ストレスとの関連、ひいては発がん、腫瘍増殖との関連について研究していく。
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