研究課題
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の発症に肥満や糖尿病などの環境要因が重要であるが、人種差や遺伝子多型などの遺伝的要因も重要であることが明らかになっており、その中でもPNPLA3遺伝子多型がNASH発症に重要であることが報告されている。しかし、その発症メカニズムは明らかでなかったため、NASH発症および病状進展に対する同遺伝子の役割を明らかにする目的でPNPLA3欠損マウスおよび変異遺伝子(I148M)トランスジェニックマウスを作成した。先ずは、ER stressを介したNASH発症へのPNPLA3遺伝子の関与について解析することとした。PNPLA3欠損マウス(KO mice)に対しER stress負荷を惹起すると、コントロールに比べKO miceでは、肝の脂肪化(microvesicular steatosis)が明らかに抑制され、肝内中性脂肪(TG)含量もKO miceでは増加が見られなかった。 また、ERストレス応答として知られている3つの経路に対する制御因子であるXBP-1遺伝子(un-splicing form非活性型:XBP-1u)およびsplicing form (活性型:XBP-1s) の発現が、KO miceではER stress負荷にて抑制されていることも明らかになった。XBP-1のsplicingを制御するIRE1のリン酸化や2量体形成は、KO mice に対してER stress負荷を行っても変化がないにも関わらずXBP-1の発現が抑制されていることから、PNPLA3遺伝子はその下流のSCD-1発現の低下および、さらにその下流にあるシャペロン蛋白誘導低下にも重要な影響を与え、脂肪酸合成および中性脂肪合成に影響を与える重要な因子であることを示唆する結果であった。以上のことから、PNPLA3遺伝子はER stress負荷による肝脂肪化発症に際し、重要な役割を果たしていることが示唆された(Hepatol Res. 2016 May;46(6):584-92. EASL 2016; ILC2016-RS-2079)。以上のように、研究助成により順調に研究成果が上がっているものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究開始から順調に多くの研究データーが出ており、その実験結果に関する論文発表と学会での報告が行われている。
我々は、本研究においてPNPLA3遺伝子はER stress負荷による肝脂肪化発症に際し、重要な役割を果たしていることが示唆する実験結果を報告した。その際、PNPLA3遺伝子は、XBP-1遺伝子発現の調節を介してNASH発症に関わっていることが示唆されたが、XBP-1遺伝子はATF6と高血糖により発現が制御されていることも報告されている (Nature Medicine 2011; 17: 356, Science 2008; 320: 1492)。これまでの我々の実験では、ER stress負荷にてWT, KO miceともにATF6発現は同等に上昇しており、血糖値にも有意差がないにも関わらずKO miceのXBP-1遺伝子発現のみが抑制されていたことから(未発表データ)、PNPLA3遺伝子はXBP-1遺伝子の発現調整に関与することで肝の脂肪化形成に関わっている事が示唆される。このため、PNPLA3遺伝子によるXBP-1の発現調整機序のメカニズムついて今後は解析を進めて行く予定である。
最終年度に活用予定があるため、予定していた外国出張をとりやめたため
最終年度の今年は、研究成果の発表のため国内外への学会発表および出席を積極的に行い、また研究にかかる物品を購入・使用予定である。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件)
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