研究課題/領域番号 |
15K09016
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
堤 進 (浜田進) 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (30367693)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HBV / 核酸センサー / Type III インターフェロン / 自然免疫応答 / HBs抗原 |
研究実績の概要 |
従来B 型肝炎ウイルス(HBV)の感染時にはそのゲノムが細胞内の病原体核酸センサーを活性化しないため自然免疫応答を誘導しないと考えられてきたが、昨年までに我々はin vitro HBV感染系を用いた検討から HBV 感染初期の肝細胞において、Type Iインターフェロン(IFN)であるIFN-α/βは誘導されないもののType III IFN であるIFN-λ1/λ2/λ3を誘導することを見出した。したがって核酸センサーの活性化を含む何らかの自然免疫応答が誘導されていることが示唆された。 平成28年度はType III IFNの誘導メカニズムをさらに詳細に検討した。その結果、昨年の試験的検討結果とは異なる結果が再現的に得られた。 HBV感染感受性細胞株Hep G2-NTCPをHBVに暴露すると感染が成立し、感染細胞は効率的にHBVを産生する。このHBV感染細胞における核酸センサーの活性化の程度を調べるため、人為的にウイルス核酸類似体である2本鎖RNA(polyIC)をトランスフェクション法により導入したところ昨年と同様にType I IFNは弱く、Type III IFN は強く誘導された。しかしこのType III IFNの誘導能は非感染細胞に比べて有意に減弱していた。したがって、ウイルス側の因子がType I IFN誘導阻害のみならず核酸センサーの活性化によるType III IFNの誘導を阻害している可能性が考えられた。 Type IおよびType III IFNをHBV感染細胞に加えると、ウイルス複製が顕著に抑制されるが、ウイルス由来mRNAの転写抑制やウイルス由来タンパクであるHBs抗原産生の抑制は軽微である。しかし興味深いことに、感染細胞にpolyICを導入するとHBV複製のみならず、ウイルスmRNA量やHBs抗原産生量が顕著に低下していることを見出した。したがって、polyIC導入によって感染細胞内で誘導される自然免疫応答のうち、Type I/Type III IFNを介しない抗ウイルス応答の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に行った検討の結果、polyIC導入によるType III IFN産生誘導はHBV感染細胞において減弱していることがわかった。また、HBVゲノムが染色体に組み込まれた形質転換細胞株であるHep G2.2.15で同様の検討を行ったところ、polyIC導入によってType I、Type III IFNのどちらも誘導されないが、RNA干渉法によりHBV由来の全てのmRNAを減少させるとpolyIC導入によるType III IFNが観察された。 以上の2つの実験結果から、HBV由来因子がType III IFN誘導を阻害していることが示唆された。 一方、これらの解析の結果、polyICによる核酸センサーの刺激によってHBV複製が抑制されるのみならずHBV mRNAおよびHBs抗原産生が顕著に減少することが明らかとなった。HBV感染細胞にType IまたはType III IFNを直接添加した場合の抗ウイルス作用はHBV複製抑制にとどまることから、IFNを介しない抗ウイルスメカニズムがpolyIC導入により誘導されうることが示唆された。この結果は想定していたものではないが、新しい細胞内抗ウイルスメカニズムを同定することにより、それがIFNに代わる新規抗ウイルス薬の標的となりうることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
polyIC導入によるIFN誘導がHBV由来因子によって減弱していることと、polyICによって誘導されるIFNを介さない抗ウイルスメカニズムについて、次のように研究を進める予定である。 細胞内の様々な核酸センサーのうちpolyICはウイルス由来1本鎖/2本鎖RNAを認識するRIG-IおよびMDA5を活性化する。そこで、ウイルス由来2本鎖DNAを認識して活性化するcGAS、IFI16、DAIや、炎症性サイトカイン(IL-1βなど)の誘導に関わるNOD2、AIM2など、種々の核酸センサーをリガンドで刺激し、IFN産生や炎症性サイトカイン産生がHBV感染細胞において減弱するかどうかを検討する予定である。 さらに、これらの様々な核酸センサーを刺激した場合、IFNや炎症性サイトカインを介さない抗ウイルス作用、すなわちHBV mRNAの減少、HBs抗原産生の減少の有無を検討する。また、観察された抗ウイルス作用が核酸センサーシグナル伝達系に含まれるMAVSやIRF3、インフラマソームに依存するかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
HBV感染時のウイルスセンサーの作用を解析するために多数の実験群を設定する必要が生じた。そのために高価な初代ヒト幹細胞を用いる代わりに実験室で維持可能な肝がん由来細胞株Hep G2-NTCPを用いた検討を優先させたため、研究費の使用額に余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度はHep G2-NTCPを用いた検討で核酸センサーによる抗ウイルス効果のメカニズムの解明がある程度進んだ際に、実際の正常ヒト肝細胞での確認を行うため、前年度の余剰分を充当する予定である。
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