従来B型肝炎ウイルスは、そのゲノムが宿主感染細胞の核酸センサーを活性化しないため、自然免疫応答が誘導されず感染が遷延すると考えられてきた。平成28年度までに、我々は in vitro HBV 感染系を用いた検討から、HBV感染細胞ではHBV由来の何らかの因子により核酸センサーシグナルが阻害されていることを確認した。HBV感染感受性Hep G2-NTCP細胞株にHBVを感染させると効率的にHBV複製が進行する。感染細胞における核酸センサーの活性化の程度を調べるため、人工ウイルス核酸類似体polyICをトランスフェクション法により導入したところ、非感染細胞では自然免疫応答が誘導され、インターフェロン(IFN)αおよびλが産生されたが、HBV感染細胞ではインターフェロン産生が減弱していた。この阻害作用はHBV由来転写産物をRNA干渉により分解するsiRNA(small interfering RNA)のトランスフェクションにより回復することから、HBVが核酸センサーシグナルを阻害することを見出した。また、polyICによる核酸センサー活性化はHBV表面抗原産生を強く抑制することを我々は見出した。一方核酸センサーシグナルにより産生されるIFNはHBV表面抗原産生に影響しないことから、IFNを介さない抗ウイルス作用の存在が示唆された。 平成29年度はこれらの結果をもとに、siRNAとpolyICの抗ウイルス作用の評価を行なった。HBV感染細胞にHBV特異的siRNAを導入すると全てのういるすmRNAおよび抗原産生が低下する。さらにpolyICを導入するとIFN産生が誘導されるとともにHBV表面抗原産生がさらに抑制された。したがって、HBV特異的siRNAとpolyICその他ウイルス核酸類似体の併用により強力にウイルス複製を阻害可能であることが示唆された。
|