研究実績の概要 |
平成28年度では、前年度に続き、TGF-βによる肝癌細胞の浸潤性誘導作用の分子機構について検討を行い、これまで実験のデータに基づいて論文を作成した。また、臨床のデータを用いまして、進行性肝細胞癌患者に、5-FU/IFNα-2b併用療法で治療前後の治療効果とその血中TGF-βのレベルの変化の間は相関があるかどうかについて検討した。 結果: 1. 5-FUは、Claudin-1の蛋白質レベルを減少させ、ERK1/2のリン酸化蛋白質レベルを増加した。これに対し、IFNα-2bとの混合添加では、Claudin-1の蛋白質レベルおよびERK1/2のリン酸化蛋白質レベルがコントロルレベルまで回復した。5-FUは、TCF8 /ZEB1, ZO-1, Vimentinおよびslugの蛋白質レベル、または、JNK, p38MAPKのリン酸化蛋白質レベルを影響しなかった。2. MAPK/ERKの阻害剤は、IFNα-2b と同じように5-FU による低下したE-cadherin およびClaudin-1の蛋白質レベルを上昇させた。3. 総計27名の患者の中では、治療後の改善と伴い血中TGF-βのレベルが低下した例の割合(a)は55.58%で、治療後の改善と伴い血中TGF-βのレベルが上昇した例の割合(b)は6.18%で(p<0.05, vs a)で、治療後の増悪と伴い血中TGF-βのレベルが低下した例の割合(c)は12.06%(p<0.05,vs a)で、治療後の増悪と伴い血中TGF-βのレベルが上昇した例の割合(d)は(26.18%)でした。治療の改善と血中TGF-βのレベルの減少の相関性(r=0.85,t=2.23,p=0.08 )、また治療後の増悪と血中TGF-βのレベルの上昇の相関性(r=0.84,t=2.22,p=0.08 )は、いずれも有意差がなかったが、高い相関を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、5-FUは、ERKを介して、E-CadherinおよびClaudin-1を抑制することで、細胞の浸潤誘導作用を発揮することを示した。また、TGF-βの減少は、5-FU/IFNα-2b併用療法の有効性に関連していることを示した。血中TGF-βレベルは、臨床において5-FU/IFNα-2b併用療法の治療効果の評価及び予後因子になる可能性があると考えられる。TGF-βシグナルを中心に、5-FU/INFα-2b併用療法の作用機構と上皮間葉転換(EMT)との関連をさらに検討した (Effects of a combination of 5-fluorouracil (5-FU) and interferon alpha (IFNα)-2b on the expression and secretion of TGF-β、Wang T, et al., 投稿準備中; The effects of 5-fluorouraci (5-FU) on TGF-β-related signaling molecules. Wang T, et al., 論文作成中)。
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