研究課題/領域番号 |
15K09021
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
齋藤 英胤 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (80186949)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / Nrf-2 / brusatol / HCV / NASH / miR-122 / EZH2 |
研究実績の概要 |
HCV持続感染細胞を樹立しHPI細胞と命名し、HCV関連肝細胞癌(HCC)のモデルとして使用した。この細胞では、HCV持続感染における脂質ラフトと脂肪滴の豊富な存在と脂質代謝亢進、転写因子Nrf2の活性化を示した。HCC細胞の増殖とHCV複製の両面からNrf-2の関与を検討することを今年度の目標とした。in vitroのみならずC型肝細胞癌組織においてもNrf2の活性化が亢進していることが認められた。また、HPI細胞にNrf2の阻害薬であるbrusatolを加えることにより、HCV蛋白質とRNA、脂質関連遺伝子発現が著明に減少すること、及び、細胞増殖が著明に抑制されることを明らかにした。一方、マイトマイシン、CDDPなど従来の抗癌剤はHPIに対して細胞増殖抑制効果を示したもののHCV抑制作用が僅かであったことから、brusatolによるHCV抑制作用は単なる細胞増殖抑制によるものではなく、代謝抑制、蛋白合成阻害等を介したbrusatolに特異的なものと考えられた。以上から、brusatolは肝癌細胞増殖抑制作用とともに、抗HCV感染作用を有すると考えられた。これは報告したSAHAと同様の効果と考えられた。 一方、高コレステロール高脂質食による9週間の飼育でヒト非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の組織変化を持つマウスモデルを作成できた。本マウスの腸内細菌叢と脂質成分、胆汁酸成分の網羅的解析を進めている。本NASHマウスモデルでは、抗生物質により腸内細菌叢を変化させて解析しているが、抗生物質による腸内細菌叢の変化によってNASHが改善することが判明した。高脂肪食負荷マウスでは、HPI細胞にbrusatolを作用させた際に顕著に低下した脂質関連遺伝子EVOLV6やHMGSなどの発現が著明に亢進し、抗生物質処理で有意に低下することが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一つの目標であるHCV産生肝癌細胞において、抗酸化作用を持つNrf-2の作用効果について明らかにすることができた。また、in vivoの慢性肝疾患モデルを作成することができ、脂質関連遺伝子の動きに共通性があることがわかった。 しかし、miR-122, Nrf-2, EZH2の相互の関連についてはまだ不明な点が多く、エピゲノム変化についての検討が未だ行われていない。In vivoの系では、未だ肝発癌が認められていないため、さらに長期の飼育が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、HCV RNA増幅と肝癌細胞増殖において、Nrf-2とmiR-122、EZH2の発現の相関性について検討を急ぐ必要性があると考える。さらにin vivoの系では、高脂肪食投与を長期に延伸し、肝発癌の有無について検討する予定である。 NASHマウスモデルでは、腸内細菌の検討、脂質成分の解析、胆汁酸成分の解析、トランスポーター発現変化を検討しなければならない。 発現変化のある分子に関しては、エピゲノム制御について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定よりも消耗品や委託にかかる費用が安価で済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に行なう実験に必要な消耗品や委託費およびアルバイト代などとして使用する予定である。
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