研究課題/領域番号 |
15K09028
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
工藤 正俊 近畿大学, 医学部, 教授 (10298953)
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研究分担者 |
西田 直生志 近畿大学, 医学部, 准教授 (60281755)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロRNA / 肝細胞癌 / ソラフェニブ / バイオマーカー / エクソソーム |
研究実績の概要 |
【目的】血中には脂質に包まれたmicroRNA (miR)が存在し、エクソソームを介して受容側細胞で機能する分泌型も知られている。我々は血中miR profile変化が肝癌の薬剤感受性に影響する場合を想定し、ソラフェニブ効果を予測しうるmiRの探索を試みた。 【方法】ソラフェニブ治療された進行肝癌のうち、3ヶ月以上PRの持続した8例(PR群)、および1ヶ月目でPDと判定された8例(PD群)の治療前血清を用い、既報より血清中での存在が報告された179種のmiRで、両群で差のあるものを選択した。微量のmiRを安定して検出するためlocked nucleic acidを用いたリアルタイム定量PCR(qPCR)を用い、referenceとして血清中に安定して存在する5種のmiR (miR-95-5p, miR-103a-3p, miR-191-5p, miR-423-3p, miR-425-5p)を定量し、その平均値とターゲットmiRとの差(ΔCq)を求めた。溶血マーカーとしてmiR-16、miR-451、miR-23aを定量し、血球由来のmiRの影響を排除した。 【成績】PR群とPD群の比較により、179種のmiRのうち、Mann-Whitney 多重U検定9種のmiRで血清中量の差が認められた(p値=0.0023~0.0578)。このうち増幅効率の良い5種のmiR(ΔCq<6)を選び、現在、53例のソラフェニブ治療前の肝癌、8例の年齢をマッチさせた健常者の血清で解析中である。 【結論】ソラフェニブ治療された進行肝癌のうち、3ヶ月以上PRの持続した8例(PR群)、および1ヶ月目でPDと判定された8例(PD群)において、血清中での量に差があるmiRが検出された。またlocked nucleic acidを用いた血清中miRは再現性が良く、微量血清から安定した測定が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血中miR定量における問題点として(1)血中に存在するmiRが微量である、(2)溶血や白血球、血小板由来miRの影響が含まれる、(3)組織崩壊によるapoptotic body由来のmiRが含まれる、(4)一般的なリファレンス遺伝子(定量のコントロール)が血清中に含まれていない、等の問題がある。我々は今年度の成果により、血清中のmiRの定量にあたり、(1) locked nucleic acid(LNA)を含むprimerを用い、特異度、感度を改善、(2) 血球由来miR を定量し、血球由来のmiRの多いサンプルを排除しsample qualityを担保、(3) 分泌型として報告されたmiRを評価対象とする、(4) 血清中に十分量の存在が確認されている5種のmiR (miR-95-5p, miR-103a-3p, miR-191-5p, miR-423-3p, miR-425-5p)の平均Cq 値をRealTime PCRで求め、これを基準として測定サンプルとの差(ΔCq)を定量する、という方法を用いた。PR群とPD群で治療前血清において含量に差が認められたmiR(候補となるmiR)として、Mann-Whitney U-testの p値<0.0578 かつ Mean ΔCq < 6を満たすものを選んだ。その結果5種のmiR (hsa-miR-148b-3p、 hsa-miR-339-5p、hsa-miR-33a-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-17-5p)が抽出された。今後はソラフェニブへの反応性がすでに明らかな53例の肝癌の血清での解析を進めることができ、また安定した定量が可能であることが明らかとなったため、順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回、網羅的め血清中miRn解析から5種のmiRがソラフェニブの早期反応を反映するバイオマーカーとして選択された。次のステップとして、53例のソラフェニブ治療を受け、その3ヶ月後の反応性が分かっている肝癌の治療前の血清、8例の年齢をマッチさせた健常者の血清で選択したmiRを解析する。
評価方法としてmRECISTを用い、評価項目として"治療開始1ヶ月目の治療効果"、および"3ヶ月間の腫瘍制御(PR/SD)の持続"を用いる。すなわち、1ヶ月目でPR/SD かつ 3ヶ月目でPR/SDの例を” 3ヶ月間の腫瘍制御あり”、 1ヶ月目でPD もしくは 3ヶ月目でPDの例を” 3ヶ月間の腫瘍制御なし”と定義し、今回選択した5種のmiRのなかで、上記の反応性を予測しうるmiRを選択する。また健常者のmiRレベルを定量し、選択したmiRが腫瘍進展の抑制、もしくは促進にはたらくmiRであるかを判断する。腫瘍の臨床背景とともに、これらのmiR濃度を多変量解析し、治療効果を独立して予測しうる因子であるかを判定する。またreferenceとして用いるmiRの組み合わせを変えてinter assay variationを%CVをもとに算出した判定し、もっとも%CVの小さい、すなわちinter assay variationの低い測定系を開発する。 さらに、肝癌細胞株を用いて、抽出したバイオマーカー候補としてのmiRをノックイン、ノックダウンすることにより、それらのmiRの癌化における意義を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の解析で抽出した5種のmiRの定量を、53例のソラフェニブ使用前の肝癌症例、およびコントロールの血清を用いて、locked nucleic acid primerを使用したリアルタイムPCRにて行う予定であり、このカスタムパネルを作成中であるが、本年度にその作成が間に合わず、納品が遅れている。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、現在作成中の5種のmiRの定量に特化したカスタムパネルの支払いが必要である。及びそのためのRNA抽出、逆転写酵素、リアルタイムPCRに必要な試薬代等が必要なため、その支出のために使用する計画である。
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