ブドウ糖とアルギニンは細胞の生存に必須で、培地にこれらがないと細胞は死滅する。しかし肝細胞ではブドウ糖はガラクトースから糖新生、アルギニンはオルニチンから尿素サイクルを介して産生される。さらにoncstatin M、アポトーシス阻害剤(M50054)等を添加した培地hepatocye differentiation inducer(HDI)を作成した。ヒトinduced pluripotent stem(iPS)細胞をHDIで培養すると2日で未分化な肝細胞のマーカーであるalpha-feto protein(AFP)、肝細胞のマーカーであるalbuminの発現が亢進することを見いだした。HDIはiPS細胞から肝細胞への分化を促進する可能性が示された。しかし7日で細胞は死滅してしまう。そのためさらに長期に細胞が生存する方法の開発が必要であった。 HDIで培養したiPS細胞をメタボローム解析すると乳酸が低下していた。乳酸を添加すると細胞は14日まで生存することが判明した。さらにAFP、albuminの発現が亢進していることが明らかになった。乳酸はブドウ糖とアルギニンがない環境でiPS細胞の生存を促し、肝細胞への分化を促進する可能性が示唆された。 乳酸は解糖系の最終代謝産物である。運動により乳酸が筋肉に蓄積し疲労の原因となっている。乳酸はCoriサイクルによってブドウ糖に変換される。全身の細胞でCoriサイクルを有するのは肝細胞のみである。したがってブドウ糖とアルギニンがない環境では、iPS細胞はCoriサイクルを介して乳酸をブドウ糖に変換して生存する可能性がある。Coriサイクルを獲得する過程で肝細胞への分化が促進されると考えられる。 乳酸がCoriサイクルを介してiPS細胞の肝細胞への分化を促進することはこれまで報告がない。
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