研究課題/領域番号 |
15K09037
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研究機関 | 東京都立駒込病院(臨床研究室) |
研究代表者 |
木村 公則 東京都立駒込病院(臨床研究室), その他部局等, その他 (70397339)
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研究分担者 |
大澤 陽介 東京都立駒込病院(臨床研究室), その他部局等, その他 (60447787)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝硬変 / HCV / 線維化 |
研究実績の概要 |
HCV感染者は現在世界で約1億7千万人、国内では約200万人いると推定される。また肝硬変患者は国内で約40万人に上るといわれ、約70%がHCVに起因している。この感染症の問題点は高率に持続感染化し、持続的炎症が線維化を誘導し肝硬変から肝細胞癌を発症させる。慢性肝炎の治療薬としての抗ウイルス薬の開発はかなり進んでいるが、未だ肝硬変に対する抗線維化薬は実用化されていない。従って、抗ウイルス治療が実施出来ないあるいは治療効果を認めなかった肝硬変患者への対策が肝細胞癌発症予防の鍵となっている。最近、Wntシグナル伝達を阻害し、β-カテニンとCREB-binding proteinの蛋白相互作用を選択的に阻害できる化合物PRI-724が発見された。この化合物は、この阻害により癌細胞の増殖を強力に抑制する効果を示したが、同時に分化の方向にスイッチを切り替える効果も確認された。最近、TGF-βを介した線維化にWntシグナルが関与していることが報告されており、抗線維化治療の標的としてWntシグナルが注目されている。申請者らはPRI-724が抗線維化作用を有するかHCV Tgマウスを用いて検討した。17ヶ月齢のHCV-TgマウスにPRI-724(1mg/kg)を42日間持続静脈投与し肝臓組織を観察したところ、PRI-724投与群ではコントロール群と比較して肝線維化像の著しい改善が認められた。HCV-Tgマウスの長期にわたる持続的肝障害を経て形成された肝線維化はヒトHCV肝硬変の病態に類似していると考えられこの治療効果は特筆すべきである。また同様の効果は肺線維症マウスモデルでも確認されており(PNAS;2010)、抗線維化薬としてのPRI-724の可能性が示唆された。本研究の目的は、Wntシグナル阻害剤PRI-724が抗線維化作用を有するという新しい知見をもと肝線維化のメカニズムを実験的肝線維化マウスモデルで解明することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、HCV TgマウスにPRI-724(1mg/kg)を6週間持続投与することにより肝線維化像の改善を認めた。Wntシグナルが線維化に関与していることは良く知られているが詳細なメカニズムは不明な点が多い。一般的にHCVによる肝線維化は、軽度な肝障害が持続して起こるためアルコールや薬物等による肝線維化とは病態が異なる。抗線維化を誘導する因子として大きく線維の合成抑制と分解系の亢進である脱線維化に分けられる。我々は線維化が形成されたHCV TgマウスにPRI-724を投与後抗線維化作用を有することから、まず脱線維化し、MMP8, 9の発現が肝臓内で亢進していることを認めた。また肝臓内のリンパ球解析によりマクロファージや単球が増加しており、IL-6やTNFaなどのサイトカインを産生していた。一方、従来から使用されている四塩化炭素を用いた肝線維化モデルを用いてPRI-724が抗線維化作用を有するか検討したところ、シリウスレッド染色にて線維化面積の減少を確認できた。このようにPRI-724の抗繊維化作用を検証できており進捗状況は概ね良好である。
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今後の研究の推進方策 |
肝がん組織では高率にβ-カテニンの変異が認められ、肝がん発症におけるWnt/β-カテニンシグナルの重要性が指摘されている。今年度申請者らは肝硬変とともに肝がんに対するβ-カテニンの転写活性制御に焦点をあて治療薬の開発をおこなう。PRI-724は、Wntシグナル伝達経路の中で、β-カテニンとCREB結合蛋白(CBP)の蛋白相互作用を選択的に阻害できる低分子化合物である。肝がんはβ-カテニンの依存性が高いがんとして知られており、PRI-724による増殖抑制効果を期待することができる。さらに、PRI-724は未分化ながん幹細胞を分化誘導することで抗癌剤の感受性を高める機能も併せ持ち他の抗癌剤との相乗効果も期待できる。今年度は肝がんに対するPRI-724の有効性を検証するため、Huh7, HepG2の肝がん細胞株を使用しPRI-724投与後の抗腫瘍効果を検討する。また肝がんマウスモデルへの有効性の確認のため、DEN+CCI4化学発がんモデルなどを用いて、PRI-724の抗腫瘍効果ならび発癌抑制効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画で記載したマウスの繁殖状況が不良であり、マウス実験のための試薬代の経費が少額で済んだため。またPCR関連の試薬およびFACS用の抗体は既存の試薬を使用することが可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の実験計画に加え、肝がんモデルの実験を追加予定している。NASHマウスモデルにおけるPRI-724の抗癌作用の検討をおこなう。
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