研究課題
申請者は積極的に膵癌の化学療法を行い、その予後不良因子の臨床的知見を集積してきた。なかでも腹膜播種は化学療法などの抗腫瘍治療効果を低下させる大きな悪性化因子である。現在いまだ腹膜播種を標的としうる有効な化学療法レジメンは殆どなく、新たな治療法が望まれる。これまでに申請者らは、SNPアレイを用いたゲノムワイドのコピーナンバーバリエーションの解析から、ヒストン脱メチル化酵素KDM6B遺伝子がp53遺伝子近傍17p13に存在し、膵癌においてLOHを呈していることを見出した(Lin, Tateishi et.al. Oncology 2008;75:102)。さらにKDM6Bの発現低下が癌抑制遺伝子CEBPAの発現を直接抑制することにより膵癌の悪性度増加に寄与することを明らかにした(Nakai, Tateishi et al. Carcinogenesis 2014)。上記の検討により、KDM6B- C/EBPa axisの破綻が膵癌自然史における腹膜播種、癌性腹水といった重度の悪性化に関与する可能性が示唆された。今回、本研究においてはKDM6B- C/EBPa axisの異常に伴って出現する細胞集団とその特異的な表面マーカーを同定することをこころみ、その候補分子を同定した。その高発現細胞集団が腹膜播種、癌性腹水などの重度の悪性化に寄与する分子メカニズムを解析し、また逆にこの分子が膵癌悪性化機序を抑制しうる治療標的となる可能性を検討する.
2: おおむね順調に進展している
KDM6Bノックダウン細胞とランダムコントロール細胞で網羅的な遺伝子発現解析を行い、その発現アレイデータを詳細に検討した。二倍以上に発現上昇がみられる分子のうち、細胞表面に発現される分子群をおよそ50遺伝子同定した。さらにその中から複数の細胞クローンを用いた定量的RTPCRにより、その有意な発現上昇に再現性がみられる遺伝子を約20分子抽出しえた。そのうち、フローサイトメトリーで実際に細胞表面の発現がKDM6Bノックダウンで増加するマーカー分子を探索した。その結果、その高発現細胞群がKDM6Bノックダウンによって誘導される表面マーカーを抽出した。よってこの新高発現細胞分画とそれ以外の分画をそれぞれsortingによって単離し、それぞれの分画ごとにスクラッチアッセイでの遊走能やマトリゲルシステムを用いた浸潤能、またsphere形成アッセイによって腫瘍形成能の程度を比較検討することによりこの高発現細胞群がKDM6Bノックダウン細胞でみられる浸潤能や腫瘍形成能亢進を再現できるかどうか検討を開始している。
in vitroのアッセイ系のみならず、in vivoでのヌードマウスへの移植系でも浸潤性、腹膜播種の有無、転移の有無、Serial Transplantによる腫瘍形成能の評価を行っていく。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
J Cancer Res Clin Oncol.
巻: 144 ページ: 933-939
10.1007/s00432-014-1873-2.