消化器癌細胞(食道癌、胃癌、大腸癌及び膵臓癌)において発現しているルミカンの分子量を比較解析することで、膵臓癌細胞において特異的に発現・分泌される特異糖鎖修飾構造をもったルミカンを同定するため、前年度に引き続いてタグ付のルミカン発現ベクターを培養消化器癌細胞に遺伝子導入を行い、その精製を行った。 培養膵臓癌細胞であるPANC-1、培養食道癌細胞であるOE33、培養胃癌細胞であるKATO-III、培養大腸癌細胞であるSW480に遺伝子導入を行った結果、いずれの細胞においても対照細胞と比較して、遺伝子導入を行った細胞においてルミカンの遺伝子発現が、有意に上昇していた。そこで、培養液中に分泌されたルミカンのタンパク質を精製するため、タグに対して親和性を示す担体を用いたアフィニティー抽出を試みた結果、PANC-1やOE33細胞の培養液中に分泌されたルミカンを抽出することは成功したが、KATO-IIIやSW480からの同条件での抽出をすることができず、抽出条件や遺伝子導入条件のさらなる検討が必要であると考えられた。一方、食道癌と膵臓癌細胞から精製してきたルミカンの発現パターンの違いを検討した所、一部発現パターンの異なるルミカンが認められたことから、臓器特異的に発現するルミカンが確かに存在することが示唆された。 また、膵臓癌細胞で発現しているルミカンの機能についても解析を行った。これまでの検討により明らかとなっていた、ルミカンの発現を抑制すると膵臓癌細胞の増殖がアポトーシスを誘導することで抑制される機構を見出しているが、その効果はRasに変異のない培養膵臓癌脂肪であるBxPC-3ではほとんど認められないことを新たに明らかにした。このことからルミカンはRasを介した経路で膵臓癌細胞の増殖に関与することが示唆された。
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