研究課題
心房細動の発症は心血管合併症のリスクの増加や生命予後の悪化に関連するが、抗不整脈薬による心房細動の停止および予防には大きな限界があり治療の有効性は未だに不十分である。治療成績向上のために発症機序のさらなる解明が不可欠である。心房細動の発症において心房の機能的および組織学的な変化“リモデリング”が重要な役割を持つ。発症機転の上流に位置する心房リモデリングを抑制し心房細動発症を予防する“アップストリーム治療”の効果に期待がもたれる。本研究は、イヌ疾患モデルを用いて心房細動の電気的および構造的基質の進展機序における、p53-miR34a-SIRT1 フィードバック回路の役割を、電気生理学的、組織学的、および分子生物学的に明らかにし、またp53-miR34a-SIRT1 フィードバック回路への介入による心房細動抑制の可能性を探索し、その成果によって心房細動の発症機序の解明および今後の心房細動治療の発展に寄与する事を目的とする。当該年度(平成28年度)は前年度(平成27年度)動物実験モデルを用いた実験を施行し、従来の検討と矛盾しない実験結果を得た。すなわち高頻度の心房ペーシングにより、偽薬対照群では左心機能の低下とともに、心房有効不応期の短縮、心房内伝導時間の延長、そして心房細動持続時間の延長が確認されたが、アンジオテンシン-II受容体拮抗薬投与群では、それらの変化が抑制され軽減された。さらに両群の心房組織を用いた分子生物学的検討を行い、偽薬対照群では心房組織におけるp53の発現低下とトランスフォーミング増殖因子(TGF)-β1の発現上昇がみられるのに対し、アンジオテンシン-II受容体拮抗薬投与群ではそれらの変化が抑制される事を確認した。これらの結果は本研究の仮説である心房細動リモデリングの細胞内伝達機序におけるp53の関与を示唆する所見である。
2: おおむね順調に進展している
当該年度(平成28年度)は、順調に実験を実施し、予定していた動物実験を概ね終了した。また組織学的および分子生物学的検討も行い、結果を別記の論文で発表した。次年度は追加の分子生物学的検討を行い、さらに詳細な病態機序を解明する。
上記の次年度の計画通りに実験を推進する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Heart Vessels
巻: 31 ページ: 2053-2060
10.1007/s00380-016-0853-7