本研究の目的は、心筋炎に対する脂肪組織由来間葉系前駆細胞(以下ADRC)の治療効果を検証することである。まずは研究初年度である平成27年度には、①実験モデルの作成、②ADRC移植による心機能改善効果の検討、③ADRC移植による抗炎症効果、血管新生効果、リンパ管再生効果について検討する計画であった。以下項目別に研究実績について述べる。 ①、心筋炎は、心筋への炎症細胞浸潤により、心筋浮腫さらには心筋細胞の脱落による線維化を引き起こし、左室収縮能が低下するのみならず、拡張障害をも引き起こす。今回我々は、この臨床症状に比較的類似した症状を示すとされるモデルであるドキソルビシン誘導性心筋炎マウスモデルを用いることとした。これまで報告されていたドキソルビシン20mg/kgの腹腔内投与では致死率が高かったため、10mg/kgの間欠投与を行ったところ、心機能低下が心エコーにて確認された。遠隔期の組織による検討では、心筋細胞の脱落と、間質の線維化が亢進していることを確認した。 ②、マウス腹部および大腿部の皮下組織から脂肪細胞を採取し、コラゲナーゼtypeIにより処理することでADRCが得られる。生後8-10週齢のマウス一匹より、約1×10^6のADRCを分離した。①で作成した心筋炎モデルマウスの心臓にADRC直接注入し、心機能が改善するか、心エコーにて評価した。現時点では、ある一定の心機能改善効果があると考えられるが、明らかな有意差は確認されておらず、今後は投与細胞数を増やしたり、ADRC中の特定の細胞分画を投与するなど検討課題が明らかになった。 ③、以前我々は、ADRC移植により、骨髄からM2マクロファージが誘導され、抗炎症作用を発揮することを報告している。本研究でも炎症性細胞の浸潤様式に変化があるか、また、リンパ管新生や、血管新生効果があるかなど、更なる検討が必要であると考えられた。
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