研究課題
心不全における死因の多くは心室細動・頻拍などの致死性心室不整脈である。心肥大や心筋梗塞などの病態心では、心筋イオンチャネルやCa調節機能の変化とともに、ギャップ結合を介する細胞間電気結合特性が大幅に変化して、致死性不整脈発生につながると考えられている。本研究では、病態動物モデルを用いて、心室筋細胞のギャップ結合の発現・分布や機能的変化が、心室細動・頻拍発生の電気生理学的基盤の形成(不整脈発生基質)にどのように関わりを解明することを目指す。今年度の研究では、心筋胎児型遺伝子発現抑制に関与する転写因子(NRSF)の優性抑制変異体を心臓特異的に発現させた遺伝子改変マウス(dnNRSF-Tg, 京都大学桑原先生から供与)を用いて、心室不整脈の発生機序を解析した。dnNRSF-Tgマウスでは、生後発育とともに心筋収縮機能が低下し、心室細動・頻拍による突然死が多発する。dnNRSF-Tgマウス心室筋では、対象と比べてギャップ結合構成蛋白(connexin43, Cx43)発現が有意に低下し、Ser279/282リン酸化が亢進していた。摘出心の活動電位光学マッピングでは、心室筋の活動電位が延長して早期後脱分極(EAD)が発生するとともに、興奮伝導速度が著しく低下し、スパイラル型興奮旋回が形成され、持続性心室頻拍・細動の発生につながることが観察された。レニン阻害薬aliskirenは、dnNRSF-TgマウスのCx43発現変化や興奮伝導障害を軽減し、心室頻拍の持続を短縮した。以上より、病態に伴う心筋ギャップ結合リモデリングにはレニン-アンジオテンシン系が重要な役割を果たすことが明らかになった。除脈誘発心肥大モデルについては、ウサギの房室結節破壊により高度除脈を数週間持続させると、心室細動ストームが高率に発生することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
病態モデル動物に関しては、今年度は主に、高度除脈誘発ウサギモデル作成を行い、心室細動ストームが高率に発生することを確認した。また、摘出心臓の活動電位光学マッピングを用いた実験の一部では、スパイラル型興奮旋回が形成されることも観察された。また、今年度は当初予定していなかった不整脈突然死をきたす遺伝子改変マウス(dnNRSF-Tg)を用いた研究も行い、病態に伴う心筋ギャップ結合リモデリングにおけるレニン-アンジオテンシン系の関与について明らかにすることができた。
心室細動ストームウサギモデルについて、持続性心室頻拍・細動発生に関わる心筋ギャップ結合リモデリングと、それを基盤とするスパイラル型興奮旋回の形成について、、摘出灌流心臓の活動電位光学マッピングを用いて研究を進める。また、それらを抑制するには、どのような方法が効果的かつ安全性が高いかについて検討する。更に、これらの動物実験と並行して、数理モデルを用いた心筋活動電位興奮伝播のコンピュータ・シミュレーションを行い、動物実験の結果を検証するとともに、その理論についても考察する予定である。
本年度は、研究開始当初に予定していなかった遺伝子改変マウスを用いた実験を行ったため、予定していた病態ウサギモデルを用いた電気生理学的実験の一部を次年度に行うこととした。
当初予定していた病態ウサギモデル摘出灌流心臓の活動電位光学マッピング実験を次年度8月までに行う。
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