研究課題
近年、がんサバイバーの生活の質を保持するという観点から、抗がん剤による心筋障害をいかに予防・軽減するか大きな関心が寄せられている。これまでの検討で2-アミノ酪酸(2-AB)は体内のグルタチオン代謝を鋭敏に反映する、新たな酸化ストレスマーカーであることを明らかにした。今年度の研究ではドキソルビシンを用いた心筋症モデルマウスにおいて心臓の機能を示す心エコー図の指標のひとつである左室径短縮率と逆相関、つまり心臓の機能が低下するほど血中の2-アミノ酪酸(2-AB)濃度が上昇することを明らかにした。臨床現場ではドキソルビシンをどれくらい使用すると心筋障害が現れるかは個人差が大きいために予測が困難である。抗がん剤による心筋障害をいち早く予知するマーカーとしての2-ABの有用性について引き続き検討を進める予定である。一方、2-ABの生理作用として細胞内のエネルギーセンサーであるAMPKを活性化し、グルタチオン合成を促進することを明らかにした。またマウスに2-ABを飲水投与すると血中の2-AB濃度が高まるとともに、心臓組織中のグルタチオン濃度の上昇も認めた。ドキソルビシンは酸化ストレスを介してミトコンドリアが豊富な心臓にダメージを与えるが、2-ABをあらかじめ投与しておくと同剤による心筋障害が軽減することを明らかにした。以上より2-ABは心不全の早期診断マーカーとして有用のみならず、グルタチオン代謝制御を標的とした新たな治療戦略の構築に寄与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
心不全における代謝制御機構の解明という目的に対し一定の成果を上げている。またその病態生理学的意義についても明らかにしてきており、心不全に対する新たな診断法や治療法の構築へとつながることが期待される。
これまでに明らかにした心不全における代謝制御機構より新たな心不全治療の構築を模索するとともに、心不全の発症・超早期予知に有用な指標となりうるか臨床での検討を予定している。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 36749
doi: 10.1038/srep36749.