(背景)左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)の病態は極めて複雑であるが、糖尿病と肥満は病態を増悪させる重要な因子であることが知られている。さらに、左室長軸方向の収縮能低下はHFpEFと密接に関連していることも報告されている。しかしながら、糖尿病患者において肥満が左室長軸方向の収縮能および左室拡張能に与える影響は十分に検討されていない。 (方法)左室駆出率が保持され、虚血性心疾患が否定された糖尿病患者206例と年齢、性別、左室駆出率をマッチさせた健常者82例を対象とした。左室長軸方向の収縮能の指標として、2次元スペックルトラッキング法を用いて、心尖部18領域からglobal longitudinal strain (GLS)を計測した。左室拡張能の指標としてはE/e’を用いた。また、body mass index 25kg/m2以上を肥満と定義した。 (結果)糖尿病患者では健常者と比較して、GLSは低下しており、E/e’は高値であった。糖尿病患者においては、肥満群は非肥満群と比較して有意にGLSが低下していたが、健常者では肥満の有無によるGLSの差は認めなかった。また、糖尿病患者では肥満群は非肥満群と比較してE/e’が有意に高値であったが、健常者では肥満の有無によるE/e’の差は認めなかった。 (結語)糖尿病患者では健常者と比較して、肥満が左室長軸方向の収縮能ならびに左室拡張能により大きく影響していると考えられた。本研究により、糖尿病患者では血糖コントロールのみならず、肥満の厳格な是正により、HFpEFの発症を予防できる可能性が示唆された。
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