研究課題
QRS波形加算微分解析システムのソフトウェアを使用し、分裂性QRS(fQRS)およびJ波の意義を、様々な心疾患で検討した。fQRS波形は心室筋興奮伝播が障害心筋・線維化により様々な方向に変化していることを示しており、不整脈発生の基質や心機能障害の推測に有用である。一方J波は再分極早期の電位異常を示しており、再分極相の不安定性から,致死的不整脈発生に結ぶ付くと考えられる。解析ソフトによりfQRS波及び異常J波の検出感度を高め、各種心筋疾患での予後推定などに応用が可能である。J波及び早期再分極波がさまざまな心室頻拍・細動発生にどのように関わるかを検討し、Shanghaiで開催された”Expert Consensus Conference on J Wave Syndromes”での招待講演で報告した。とくに低体温で見られる心室細動発生が、J波出現のみならず、その後のST-T波形の異常と関連が強いことを報告した。低体温で見られるJ波の意義を検討したデータの一部はアジア環太平洋不整脈学会でも発表し、Best Poster Awardを受賞した。また、発熱時にのみ出現する著明なBrugada型J-ST上昇の臨床的意義を検討し、元々不整脈の症状を有さない症例でも年間0.9%の心室細動・突然死の発生が起こることを報告した(Heart Rhythm 2016, in press).Brugada症候群ではfQRSの存在が心室細動などの心事故発生と関連することは以前報告したが、fQRSの存在部位がJ点上昇が見られる心電図誘導のみならず、下側壁誘導などの他の誘導で広く見られる場合、J波が存在する場合よりも予後が悪いことを報告した(JCS 2016)。J波及びfQRSの様々な心疾患の心事故との関連についても検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
心臓性突然死の予測因子として、fQRS及びJ波の意義を、複数の国内学会のシンポジウム(6題,うち招待講演1題)、国際学会の一般演題(8題)および招待講演(2題)で報告した。この研究に関連した論文が2015年度に3本出版され、1本がacceptされている。また作成中の論文が2本あり、近日投稿予定である。さらに、2017年度での国際学会でも一般演題、招待講演で発表予定である。
症例登録は継続して行い、必要に応じて解析ソフトウェアの改良を行う。また当院で多い心疾患(心筋梗塞、心筋症、Brugada症候群、J波症候群など)で前向きデータの蓄積を開始し、古典的なリスク評価法と加算微分法による分裂性QRS・J波解析の各データと、致死的不整脈・心不全発生との関連性を検討する。平成28年度時は経過観察日数が十分でないため、主に後ろ向き研究で、心事故の発生等の各指標のOdd ratioを求める。一部疾患については現在論文作成中であり、終了次第peer review誌への投稿を行う。
当初、解析用コンピュータ(HP ENVY17-j100/CT 日本HP社製)を購入予定であったが岡山大学循環器内科の研究室に既存しているコンピュータで代用が可能であった。そのため次年度への繰り越しとした。
心電計の記録紙、データー保存用のメモリー、ハードディスク等の消耗品および情報収集のために国内、国際学会への旅費に使用する予定ある。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 4件) 図書 (2件)
Heart Rhythm
巻: 13 ページ: 1515-1520
10.1016/j.hrthm.2016.03.044.
医学の歩み
巻: 256 ページ: 668-674
Heart View
巻: 20 ページ: 20-27
臨床と研究
巻: 93 ページ: 117-121
Circ J.
巻: 79(12) ページ: 2568-2575
10.1253/circj.CJ-15-0618.
巻: 79(2) ページ: 310-317
10.1253/circj.CJ-14-1059.