【背景】血液の凝固能を亢進させる血中組織因子レベルは虚血性心疾患患者の予後規定因子であり、脳梗塞患者の予後規定因子である。歯周病は心血管疾患を含めた全身性疾患の罹患率や死亡率を増加させる危険因子としてとらえられる歯牙の支持組織の慢性炎症である。 歯周病と動脈硬化性疾患の関連について様々な報告がなされている。【目的】歯周病と動脈硬化性疾患との関連性を検討するため歯周病患者の組織因子レベルについて検討した。【方法】 対象患者は熊本大学循環器内科に入院し、冠動脈造影検査を受けた患者である。組織因子が上昇する炎症性疾患のある患者や急性冠症候群の患者は除外した。入院後歯周病菌Prevotella intermedia (Pi)に対する血清抗体価、血中組織因子抗原レベルを測定する目的で空腹時採血を行った。採血結果を知らない歯科医が次の歯周病検査を行った。・プロービング時の出血部位の割合・歯周ポケットの深さ≧6mmの歯の本数・欠損歯数・歯根長の1/2以上の骨吸収のある歯の割合・喫煙状況(1年間の喫煙本数)この結果から歯周病スコアを算出した。【結果】 組織因子の中央値で高値群74人と低値群72人に分けて検討したところ、組織因子高値群でHDLコレステロールが有意に低く、中性脂肪が有意に高かったが、その他の因子に有意な差はなかった。歯周病検診結果から算出された歯周病スコアは組織因子高値群で有意に高かった。またPi抗体価は組織因子高値群で有意に高かった。患者背景で差がある因子と歯周病スコアとPi抗体価を含めた多変量解析の結果、各因子を調整しても組織因子高値群では歯周病スコアが独立して高値であることがわかった。【総括】 今回の検討では歯周病があることによって血中組織因子レベルが高値となることがわかった。歯周病は血中の凝固能を亢進させることで虚血性心疾患の発症を促進していると考えられる。
|