本研究では、複雑な三次元的構造を有するために従来から詳細な心機能の評価が困難であった右室に関して、三次元的右室分割モデルを用いた従来にはない右室部位別心機能評価法を確立することを目的とする。さらに、この評価法を用いて肺高血圧症例における右室機能を詳細に解析することにより、これまで充分に解明されていない肺高血圧による右室病態生理への影響を明らかにすることを目的とする。本研究の最終的な展望としては、詳細な右室部位別心機能評価法の臨床現場での実用化を目指しており、種々の原因に起因する肺高血圧症例において右室の詳細な病態把握を通して的確な治療効果判定に加え、治療効果および予後の予測が可能となるよう肺高血圧症の実臨床に貢献したいと考えている。前年度までに三次元心エコー図を基にした三次元的右室分割モデルの作成、さらにこのモデルを用いた右室部位別心機能評価手法の確立は達成できている。今年度では、この右室部位別心機能評価手法を用いて健常例および肺高血圧症例を対象とし、安静時、運動負荷時、および食餌負荷時の右室部位別心機能について検討した。また、肺高血圧症の原疾患(特発性肺動脈性肺高血圧症、膠原病、左心不全、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎)による右室部位別心機能の差異について検討した。また、肺高血圧症の重症度と右室局所心機能との関連について検討するとともに同一症例における肺高血圧の改善あるいは増悪と右室局所心機能との関連についても検討した。さらに、薬物治療が右室部位別心機能に与える影響について検討するとともに薬物治療開始前の右室部位別心機能から薬物治療に対する反応性あるいは抵抗性が予測可能か否かについても検討した。また、観察期間中の心不全増悪に対して観察開始時の右室部位別心機能からの予測の可能性、さらに右室局所心機能による心不全増悪のリスク層別化についても検討した。
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