研究課題
今研究の目的は、Holter心電図などの既存の医療機器を応用して簡易で利便性の高い不整脈による臓突然死の予知手法を開発することである。研究手法としては、大きく工学的アプローチとしての大規模なコンピュータシミュレーション解析と医学的アプローチとしての臨床での電気生理学的異常指標の評価に分けられる。平成27年度では、工学的アプローチとして大規模なコンピュータシミュレーション解析を国立循環器病センター研究所に設置されてあるスーパーコンピュータを用いて行った。スーパーコンピュータ上に心筋細胞の最新数学モデルとされるLuo-Rudy(Phase 3)モデルを用いて、仮想心臓モデルを構築した。そして、電気刺激で心室細動を誘発した後、シミュレーション解析を行った。得られたデータを詳細に解析することで、心室細動がどのようにして発現するかについて検討した。具体的な方法としては、心筋細胞の活動電位を再現することが可能なユニットを約2000万個組み合わせ、心室形状モデルを作成した。モデルには心室壁内における組織の不均一性(心室較差)を組み込んだ。心筋組織の電気的活動に影響を及ぼす脱分極(伝導)異常、再分極異常、自律神経活動異常に関与するパラメータを操作して変化させることで、どの操作(変化)が、最も心室細動の発現に関与するかを検討した。その結果、心室細動が発現・維持するには、脱分極異常、再分極異常、自律神経活動異常のいずれもが関与することが示された。現在、どのような操作(変化)であれば、心室細動がより発現しやすくなるかについて評価を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
初年度に当たる平成27年度では、工学的アプローチとして大規模なコンピュータシミュレーション解析を中心に本研究を進めていくことを予定していた。本研究を遂行する上での主要な設備、すなわちスーパーコンピュータについては、分担研究者である中沢一雄氏が勤務する施設(国立循環器病センター研究所)に設置されていたため、比較的スムーズに本研究を開始することができた。スーパーコンピュータを用いての数値解析は高度な専門的知識が必要であるため、この領域を専門とする分担研究者である芦原貴司氏と連携研究者である稲田 慎氏の協力を得て進めており、研究の統括は研究代表者である池田隆徳が担っている。以上のような理由で、研究は概ね順調に進展していると判断した。
本研究課題の今後の推進方策としては、平成27年度に立案した研究計画がおおむね順調に進展していることから、平成28年度では当初から予定されていたように、工学的アプローチとしてのコンピュータシミュレーション解析に加えて、医学的アプローチとしての臨床での電気生理学的異常指標の評価を開始する。具体的な方法としては、24時間Holter心電図を記録し、脱分極異常指標と再分極異常指標を同時に計測し、自律神経活動異常を反映する指標を評価手法に導入することを考えている。脱分極異常指標、再分極異常指標、自律神経活動異常指標のいずれが、心室細動の発現と最も関連しやすいかを実臨床で評価する。臨床において疑問が生じた場合は、コンピュータシミュレーション解析を再度行い、矛盾点を解決する。
次年度使用額が生じた理由は、大阪で開催する予定であった分担研究者との会議が急遽、大学での緊急会議が入ったことで使用できなかったことによる。
使用計画としては、平成27年度に行うことができなかった分担研究者との会議(国内旅費)に使用する予定である。
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