研究実績の概要 |
非必須アミノ酸であるグルタミン酸が、酸化ストレス産生を介して血管内皮機能障害を引き起こし、冠攣縮性狭心症の危険因子の一つとなり得るかを検証した。冠攣縮性狭心症が疑われる92人の患者を対象とした。冠攣縮が誘発された55人を冠攣縮群、誘発されなかった37人をコントロール群とした。血漿グルタミン酸濃度は両群で有意差を認めなかったが、非喫煙者においては、コントロール群(n=25)に比べ、冠攣縮群(n=31)で有意に高値であった(58.0±25.5 nmol/ml vs 44.0±17,8 nmol/ml, P=0.024)。通常、グルタミン酸は、血管内皮細胞において酸化ストレスを惹起することが知られているため、酸化ストレスマーカーの一つである血清ニトロチロシン濃度を評価したところ、二群間で有意差を認めなかった。そこでグルタミン酸は、酸化ストレスではなく、抗酸化作用を介して冠攣縮に関与していると想定した。システインは、抗酸化作用を発揮するグルタチオン合成に必要なアミノ酸である。血管内皮細胞において酸化型システインであるシスチンが、グルタミン酸と競合して細胞内に取り込まれるため、非喫煙者の二群間で血漿シスチン濃度を測定したところ、コントロール群に比べ、冠攣縮群で有意に高値であった(32±20 nmol/ml vs 24±21 nmol/ml, P=0.0053)。これらの結果からグルタミン酸は、非喫煙者において、抗酸化作用の減弱による間接的な酸化ストレスにより血管内皮機能障害を惹起し、冠攣縮性狭心症に進展させる危険因子であることが示唆された。外因性のグルタミン酸が血中グルタミン酸濃度を上昇させるかは不明だが、東洋人のグルタミン酸ナトリウムの過剰摂取が、欧米人に比して冠攣縮性狭心症の罹患率が高い一因かもしれず、さらなる研究が必要であると考えられた。
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