研究課題/領域番号 |
15K09108
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
長谷川 浩二 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 展開医療研究部, 部長 (50283594)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 循環器・高血圧 / シグナル伝達 / 薬学 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
我々は心不全発症における心筋細胞核内情報伝達経路を検討し、ヒストンアセチル化酵素活性を有するp300が転写因子GATA4をアセチル化することで病的な心筋細胞肥大や心不全の悪化・進展に重要な役割を果たしていることを見出した。またp300特異的HAT活性阻害作用を持つ天然物クルクミンが、高血圧性心疾患ならびに心筋梗塞後心不全において心機能低下を抑制することを見出した。さらにプロテオミクス解析によりGATA4結合因子として Receptor for activated protein kinase C1 (RACK1) を同定した。本年度はRACK1の心筋細胞肥大における役割について詳細に検討し、RACK1がp300によるGATA4のアセチル化を制御することにより、心筋細胞肥大を抑制することを明らかにした。さらにその制御機構にはRACK1のチロシンリン酸化が関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HEK293T細胞を用いて免疫沈降(IP)-ウェスタンブロット(WB)法を行ったところ、RACK1はp300とGATA4の結合を抑制することでp300によるGATA4のアセチル化を抑制することを見出した。さらにラット初代培養心筋細胞にレンチウイルスを用いてRACK1を過剰発現し、IP-WB法及びChIP法を行ったところRACK1はフェニレフリン(PE)によるGATA4のアセチル化及びDNA結合能を抑制した。培養心筋細胞にRACK1を導入し、ANF,ET-1の転写活性を測定したところ、RACK1はPEによるANF,ET-1の転写活性の亢進を抑制した。さらに培養心筋細胞にレンチウイルスを用いてRACK1を過剰発現し、β-MHC抗体で免疫染色を行い細胞面積測定をしたところ、RACK1はPEによる心筋細胞面積の増加を抑制した。培養心筋細胞に対してPE刺激を行い、IP-WB法により、RACK1の翻訳後修飾ならびにGATA4との結合変化を検討したところ、PE刺激はRACK1のチロシン残基のリン酸化を亢進させ、RACK1とGATA4の結合を減少させた。さらに培養心筋細胞においてチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブを用いてIP-WB法により検討を行ったところ、ダサチニブはPE刺激により亢進するRACK1のリン酸化を抑制することを見出した。また高血圧性心不全ラットモデルであるダートラットを用いた検討により、心不全期においてRACK1のチロシン残基でのリン酸化が亢進し、GATA4との結合が減少することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
我々はGATA4結合蛋白質の網羅的解析を行い、RACK1以外に、Methlosome protein 50 (MEP50) 、 Protein arginine methltransferase 5 (PRMT5)、Transducin beta lile 1 (TBL1) などの情報伝達に関わる蛋白を同定している。これらの蛋白がどのおうにp300/GATA4 による心筋細胞肥大における遺伝子転写活性制御に関与しているのかを検討してゆく予定である。現在 PRMT5の心臓特異的欠損マウスも作成している。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた支出と実際の支出に差額が生じ、少額が残ったため次年度に使用するものとする。
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次年度使用額の使用計画 |
心不全発症伝達経路の解明として、MEP50、PRMT5、TBL1などの分子について解析予定であり、またPRMT5の心臓特異的欠損マウスの飼育や、大動脈縮窄ストレスによる心エコーによる心機能解析などを行ってゆく予定であり、これらの研究計画に必要な経費として使用する予定である。
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