研究課題
慢性心不全モデル動物を用いて、デクスメデトミジンの心不全治療効果を検証した結果、ドキソルビシン誘発性心筋症モデルマウスにおいて、体重減少を抑えることが出来たものの、生存率の改善には至らなかった。この理由を探るべく、ラットを用いた急性実験を行った。全身麻酔下のラットにて、頚動脈洞に存在する圧受容器領域を体循環系から分離し、頚動脈洞内圧を階段状に変化させて、交感神経活動と体血圧の応答を測定した。メデトミジン投与下に同様の実験を行い、メデトミジンが圧受容器反射に及ぼす影響を検討した。頸動脈洞内圧と交感神経活動の入出力関係で記述される中枢弓の特性は、逆シグモイド曲線を示し、メデトミジン投与下では、シグモイド曲線は下方にシフトした。交感神経活動と血圧の入出力関係で記述される末梢弓の特性は、ほぼ線形に近似でき、メデトミジン投与下では、この直線は上方にシフトした。このことは、メデトミジンは中枢性には交感神経活動を抑制するものの、末梢では血管抵抗を上昇させることを意味しており、メデトミジン投与は心臓の後負荷を増大させる可能性があることが示唆された。したがって、メデトミジン(デクスメデトミジン)の心不全治療効果は、これらの相反する作用(交感神経抑制作用と後負荷増大作用)のバランスに依存すると考えられる。そのため、マウスを用いた慢性実験で生存率の改善が見られなかった理由は、デクスメデトミジンの後負荷増大作用が前面に出た結果と言える。以上のことから、メデトミジン(デクスメデトミジン)を心不全に対して使用する際には、可能なかぎり後負荷増大作用を抑える必要があり、今後、後負荷を増大させない投与法や他剤との併用法についてさらなる検討を重ねていくことが必要である。
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