研究課題
本年度は、新規洞性徐脈家系の遺伝子変異を同定するために、以下のことを行った。全exonシークエンスはすでに得られていたので、配列情報から頻度の高いバリアントは取り除き、続いてin silico(計算機)をベースにした、バイオインフォーマティックスの情報を組み合わせて障害度の予測を行った。その結果、この段階で8個の遺伝子に絞り込むことができたが、当初の計画よりも候補遺伝子が多くなってしまったため、上記の課題を改善するために、遺伝学的なアプローチを適用することを計画した。実際には、全エクソン解析により検出されるバリアントの情報を用いたHamming Distance Ratio(HDR)法、あるいは家系を用いたマイクロサテライト解析を試みた。その結果、これらのアプローチでさらに数個の遺伝子を除外することはできたが、ゲノムレベルで遺伝子変異を絞りこむにはまだ充分とはいえなかった。一方、これまでとは別家系の洞性徐脈家系を用いた解析を行ったところ、ある種のチャネルをコードする遺伝子Xの変異の同定に成功した。この変異については、in vitroにおいては、細胞を用いた電気生理学的な解析により再分極の活性化、あるいは静止膜電位の維持に関わる電流を構成するチャネルの電流量の増加が示唆された。さらに、in vivoにおける解析を行うために、遺伝子Xのヒトの変異を導入した、トランスジェニック動物を作成した。
2: おおむね順調に進展している
これまでの家系の候補遺伝子の絞り込みについては、遺伝学的なパラメータを入れたものの、候補遺伝子を充分に絞り込むことができていない。これは頻度の少ない変異がgenome中に潜在的に多い可能性、あるいは多因子ではないが、複数の遺伝子座の相互作用の可能性を反映していることが考えられる。その為、並行して別家系の遺伝子変異を解析したところ、原因となる遺伝子Xの変異の同定に成功した。この遺伝子はチャネルタンパクであるため、直接電気を測ることにより変異の機能を予測できる結果となった。
上記の課題を改善するために、これまでの家系については、並行して候補遺伝子の絞り込み方法を検討する。一方、別家系の遺伝子Xの変異についてはトランスジェニック動物の作成が進んでいるので、この動物を用いてin vivoによる変異の病態再現性、さらには薬剤を用いた機能的レスキューの検討を行う予定である。
“現在までの進捗状況”にも触れたように、前年はこれまでの家系の遺伝子の同定作業に集中したこと、および別家系の機能解析は別予算から費用を捻出した為に、予想されたよりも物品費の使用が抑えられ、その結果として次年度使用額が生じた。
“次年度の計画”にしたがって、現在準備を進めている実験計画の遂行に物品費を充てる。また、学会などへの参加および研究関連のサポートも必要とされるため、これらについても前年と同じく費用を充てることを計画している。
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J. Am. Heart. Assoc
巻: 5 ページ: e003521
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