研究課題/領域番号 |
15K09112
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
神谷 千津子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 医師 (10551301)
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研究分担者 |
石田 充代 (大橋 充代) 国立研究開発法人成育医療研究センター, バイオバンク, 共同研究員 (20445860) [辞退]
大谷 健太郎 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (50470191)
神谷 厚範 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (30324370)
池田 智明 三重大学, 医学系研究科, 教授 (80202894)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 心疾患 / 妊娠・出産 |
研究実績の概要 |
周産期心筋症は、心疾患の既往のない妊産褥婦に突然発症する原因不明の心不全である。これは健康な女性の妊娠出産を脅かす大きな問題であるが、産科と循環器科の境界にある疾患のため、産科医師にも循環器科医師にも疾患の存在や概念すら十分には周知されていない。本研究班は、国内唯一の周産期心筋症研究を行っており、これまで、臨床疫学研究・モデル動物による病態解明研究などを行ってきた。本研究は、次段階の取り組みとして、診断遅延に陥りがちな周産期心筋症の発症過程を解明するため、①周産期心筋症の発症リスク因子(妊娠高血圧症候群や心筋症家族歴など)を持つ妊産褥婦を対象に心機能や心不全マーカー測定を行う前向き臨床試験を行い、②特異な診断検査のない周産期心筋症における、血管障害性診断バイオマーカー(ペプチドとmicroRNA等)の網羅的探索を実施する。 前向き臨床試験では、現在全国17病院の研究協力を得、平成27年度に約200症例の検討を終えた。うち2例で周産期心筋症と診断しており、目標の1000症例の登録、解析を予定している。 診断バイオマーカーの探索では、H28年度は、これまでに蓄積した患者検体で、当初予定の血管新生因子であるVEGF、炎症マーカーのIL-6、組織修復リモデリングに関係し、線維化マーカーであるテネイシンCの測定を行った。H29年度は、血管障害因子であるsFlt-1などの測定を予定している。患者DNA検体の米独との国際共同研究成果(3か国に共通して、1~2割の患者に拡張型心筋症に関連した遺伝子変異を認める。NEJM 2016)をもとに、論文”Peripartum Cardiomyopathy From a Genetic Perspective”をCirculation journalで報告し(doi: 10.1253/circj.CJ-16-0342)、講演、学会報告、原稿執筆などを精力的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①妊娠高血圧症候群患者が周産期心筋症を発症する臨床過程を調べるための前向き臨床試験:平成27年、12施設で研究を開始した(UMIN-CTR ID 000020345)。データ登録用サーバーを設立し、研究専用ホームページから、共同研究機関がデータ登録を随時更新、事務局でデータクリーニング後、共同研究者内でデータ共有できるシステムを構築した。平成28年に協力施設数は17に増加、平成29年2月までに213例の登録を得た(うち2名が心筋症発症)。 ②周産期心筋症における診断バイオマーカー(ペプチドとmicroRNA等)の網羅的探索:周産期心筋症は、その最大危険因子である妊娠高血圧症候群との関連や基礎モデル動物実験から、病態の一つとして血管障害が考えられている。また、本研究によるこれまでの病理組織解析から、急性期~亜急性期に(炎症性)組織リモデリング像の強い症例では、慢性期心機能の回復度が低い傾向にあることが判明した。そこで、H28年度は、当初予定の血管障害マーカーに加え、炎症性マーカーであるIL-6と組織リモデリングに関与するマトリックス蛋白であるテネイシンCを患者検体で測定した。結果、診断2週後のVEGF 32.6±24.1 pg/ml, IL-6 5.5±7.9 pg/ml, テネイシンC 42.5±26.3 ng/ml, 診断3か月後のVEGF 44.7±107.8 pg/ml, テネイシンC 33.2±25.6 ng/mlであった。患者背景や心機能予後との比較検討において、体外式心肺補助装置装着例でIL-6が高値であること、診断3か月後のVEGFが異常高値である場合、心機能回復度が低いことが判明した。今後、対照群として正常産褥婦で測定・比較検討し、報告する。 以上から、研究計画は順調に遂行できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)妊娠高血圧症候群患者が周産期心筋症を発症する臨床過程を調べるための前向き臨床試験:1000症例を目標に解析予定としている。これまで心エコーとBNP測定を軸に行ってきたが、今後、これにNT-proBNPと高感度トロポニンTの測定追加を予定している。本研究結果により、周産期心筋症のハイリスク妊婦において、いつ、どのような検査を施行したら、早期診断に結び付けられるかを検討する。また、共同研究により、24時間血圧変動や血管検査を合わせて行い、心筋症発症者と非発症者との比較を行う。 (2)周産期心筋症における診断バイオマーカーの網羅的探索:基礎動物実験や病理組織研究から得られた成果をもとに、炎症性マーカーや線維化マーカー、ホルモン関連マーカーを中心に、今後も測定を予定している。また、最大危険因子である妊娠高血圧症候群に焦点を当て、国立循環器病研究センター 創薬オミックス解析センターにおいて、次世代シーケンサーによる全エクソン解析を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、外部委託で検体検査を予定していたが、国立循環器病研究センター研究所との共同研究として測定できたため、予定の金額より安価に抑えられ、残金が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
検体測定に必要な実験試薬、外注検査費、モデル動物の購入、関連学会参加のための旅費および参加費、論文化の際の英文添削費用、研究補助員への謝金、協力施設からの検体送付にかかる費用などに使用を予定している。備品等の購入は予定していない。
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備考 |
PREACHER http://wwww.周産期心筋症.com
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