研究課題/領域番号 |
15K09121
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石田 達郎 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命教授 (00379413)
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研究分担者 |
杜 隆嗣 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命准教授 (50379418)
平田 健一 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20283880)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高比重リポ蛋白 / HDL / コレステロール引き抜き / 動脈硬化 / 脂質代謝異常 |
研究実績の概要 |
高比重リポ蛋白(HDL)粒子は多彩な抗動脈硬化作用を持ち、これまで血漿HDLコレステロール(HDL-C)濃度がその量的指標と考えられてきた。しかし、最近の介入試験ではHDL-C上昇薬の心血管イベント抑制効果は証明されず、HDLの量よりは機能が重要視されるようになった。とくに、HDL粒子のコレステロール引抜き作用と冠動脈疾患との関係が注目されている。 我々は、 放射性同位元素や培養細胞を用いず、血清中のHDL粒子に蛍光標識コレステロールを直接取込ませ、プレートに固相化したアポA-I抗体でHDLを捕捉した後のHDLの蛍光強度を「HDL特異的コレステロール取込み能」として評価する新規測定系を開発した。 健常人の血清を用いた検討では、新規の「コレステロール取込み能」は、細胞を用いた従来のコレステロール引き抜き能と強い相関を認めた(r=0.82, p<0.0001, n=29)。 血清LDL-C濃度が100mg/dL未満に管理されている125人の冠動脈疾患患者を対象にコレステロール取込み能を測定したところ、冠危険因子の集積に伴ってコレステロール取込み能が低下していた。また、カテーテル治療後に再治療を必要とした患者では、必要としなかった患者に比べて取込み能が低下していた(p=0.028)。多変量解析では取込み能は再治療の規定因子であることが判明した。以上より、コレステロール取込み能はHDLの機能を反映しており、内服治療により古典的な危険因子が適切に管理されている冠動脈疾患患者において、コレステロール取込み能が残余リスクとなることが示唆された。 コレステロール取込み能を制御する血清因子を検索したところ、抗酸化酵素パラオキソナーゼ1と、アポA1の酸化変性を起こすミエロペルオキシダーゼの血中濃度が、HDLの抗炎症能やコレステロール取込み能と逆相関し、冠動脈疾患の予後にも有意な影響を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床研究、基礎研究ともにおおむね順調に進行している。臨床研究では症例数を増やしてコレステロール取込み能と冠動脈疾患の予後との関係を前向きに検討しているが、予後の検討には相応の時間がかかることが予想される。また、市販のELISA測定装置による自動測定を目指して、再現性と簡便性の向上のためにコレステロール標識を蛍光から化学発光法へと変更しているが、今年度中には技術面での改良を終えられる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1. 臨床研究では症例数を増やすことと、コレステロール取込み能が冠動脈病変の形状(不安定性)や冠動脈疾患の予後(心血管イベント)に及ぼす影響を前向きに検討している。 2. この新規測定系の再現性と簡便性の向上のためにコレステロール標識を蛍光から化学発光法に変更する。この改良により市販のELISA測定装置による自動解析が可能となり、市販化に向けて汎用性の向上を目指す。このような簡便で正確なHDL機能評価の普及によって、HDL機能不全の病態や薬剤の有効性の評価に役立つことが期待される。 3. 同時に、コレステロール取込み能を制御する因子を同定し、合成HDLを用いた基礎研究によりってその作用機序を明らかにするための実験を継続する。
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