研究課題
これまで我々は、培養プレートに固相化したアポA-I抗体で血清中のHDLを捕捉し、蛍光コレステロールを取り込ませた後の蛍光強度を「HDL特異的コレステロール取込み能(CUC)」として評価する新規測定系を開発した。今年度は、この方法を用いて、症例を増やして冠動脈疾患患者の重症度とCUCとの関係を検討した。CUCは、カテーテル治療後の慢性期に病変再発例や、多数の危険因子を有するハイリスク患者群において低値を示しており、多変量解析によって冠動脈疾患の予後の独立した規定因子であることが判明した。また、光干渉断層法を用いて動脈硬化病変を形態学的に解析したところ、CUCは線維性被膜の薄さと正相関し、動脈硬化プラークにおける脂質コアの長さ(血管長軸)と角度(血管短軸)と逆相関し、Lipid Index (=脂質コア量)との間にも逆相関関係を認めた。CUCに影響を与える薬物治療の候補として、高純度エイコサペンタエン酸(EPA)製剤に焦点を当てて介入したところ、プラーク繊維性被膜は厚くなり、Lipid Indexも縮小し、不安定プラークの安定化が示唆される結果であった。また、EPAの投与はCUCを有意に改善した。EPA投与後のCUC改善機序を検討するために、粒子中にEPAを含む再構成HDLを用いた実験を行った。EPA含有再構成HDLではCUCが約25%の改善を認めた。また、EPA含有再構成HDLは、血管内皮細胞におけるVCAM-1の発現を抑制し、内皮細胞との相互作用によって炎症収束性の脂質メディエーターであるレゾルビンE3の産生を増加した。以上より、CUCは、HDLの多彩な抗動脈硬化機能を反映し、冠動脈プラークの脂質コア量の制御因子であることが証明された。今後、日常診療において本測定法が普及することにより、冠動脈疾患二次予防の層別化や治療戦略の選択に有用な指標となることが示唆された。
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