研究課題/領域番号 |
15K09129
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 加代子 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (20246482)
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研究分担者 |
鈴木 敦 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (00625626)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 臨床血管学 / 心不全 / T細胞 / 免疫記憶 / カリウムチャンネル / サイトカイン |
研究実績の概要 |
人口動態統計によると、死亡原因に占める虚血性心疾患および心不全の割合が増加している。本研究では、虚血性心疾患や心血管疾患の予後を規定する心不全の病態に重要な炎症性サイトカイン、エフェクターT細胞(Teff)の分化増殖や免疫記憶、ヘルパーT細胞(Th)サブセットや障害性T細胞(CTL)の関与について解析した。 虚血性心筋症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、弁膜症性心筋症などによる心不全患者では、① 炎症性サイトカインIL-2、IL-6、IL-17、IFNγの高値を認めた。また、②T細胞免疫記憶をナイーブT細胞:TN(CCR7+CD45RA+)、セントラルメモリーT細胞:TCM(CCR7+CD45RA-)、エフェクターメモリーT細胞:TEM(CCR7-CD45RA-)、TEMRA(CCR7-CD45RA+)について検討したところ、TEM(CCR7-CD45RA-)、TEMRA(CCR7-CD45RA+)発現亢進を認めた。また、TEMより分化増殖したTeffであるCD4+Thサブセット:IFNγ+Th1、IL-4+Th2、IL-17+Th17、Foxp3+CD25+制御性T細胞 (Treg)、CTLサブセット:CD4+TRAIL+CTL、CD8+perforin+granxymeB+CTLを解析した結果、心不全では細胞障害性の強いTh1、Th17、CD8+CTLの発現亢進を認めた。③ TNよりTEMへの分化過程に寄与するカリウムチャンネルKV1.3の特異的阻害剤PAP-1処理により、活性化したTeffであるTh1、Th17、CD8 CTL発現減少を認めた。さらに、臨床で使用されているKV1.3阻害効果のあるアンカロン(AMD)投与例での免疫記憶、Teffへの影響と臨床効果を解析したところ、AMD投与例で血中BNP、IL-6の低下、 Th1、Th17、CD8+CTLの発現減少を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 慢性心不全患者におけるサイトカインと臨床所見の検討:心不全患者(HF群)末梢血では、BNP、hsCRP、炎症性T細胞サイトカインIL-2、IL-6、IL-17、IFNγが高値で、Teffの活性化、特にTh1、Th17、CTLの活性化が慢性心不全の病態を増悪する体液性因子の一つと考えられた。 2. 慢性心不全群における免疫記憶とエフェクターT細胞の検討:Cont群およびHF群より末梢単核球(PBMC)を単離し、CD4+T細胞およびCD8+T細胞におけるTN(CCR7+CD45RA+)、TCM(CCR7+CD45RA-)、TEM(CCR7-CD45RA-)、TEMRA(CCR7-CD45RA+)発現による免疫記憶をFACSで解析した。また、エフェクター機能を発揮するTeffであるCD4+Thサブセット(Th1、Th2、Th17、Treg)、CTLサブセット(CD4+TRAIL+CTL、CD8+perforin+granxyme B+CTL)を解析した。その結果、HF群ではCD4+T細胞、CD8+T細胞ともにTEM、TEMRAの増加、CD69陽性活性化Th1、Th17、CD8+CTLの増加を認めた。すなわち、心不全ではTEMが活性・分化増殖しTeffとなることで、心不全の病態増悪に関与していると推測された。 3. 電位依存性K+チャンネル(Kv1.3)阻害剤のエフェクターT細胞への影響:T細胞受容体(TCR)刺激により活性化状態となるとKv1.3はTEM細胞で発現亢進し、膜電位やCa2+シグナルの制御に寄与する。そこで、HF群のPBMCを特異的KV1.3阻害薬PAP-1、または非特異的KV1.3阻害効果のある抗不整脈剤アンカロンで処理したところ、活性化したTeffであるTh1、CD8+CTL の発現減少が認められ、心不全のTeff機能亢進にKv1.3が重要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は、H27年度研究結果を総括し不十分な点を検討すると伴に以下の研究を進める。 1. 慢性心不全群におけるT細胞のKv1.3とCa2+活性化K+チャンネル(KCa3.1)の機能解析:静止状態ではKv1.3およびKca3.1は低発現であるが、TC刺激により活性化するとKv1.3はTEM細胞で発現亢進し、膜電位やCa2+シグナルの制御に寄与する。HF群でエフェクター機能が亢進していたTeffでのKv1.3およびKCa3.1チャンネル電流をパッチクランプ法で解析する。 2. Kv1.3とKCa3.1の免疫シナプス形成におけるT細胞活性化機序の解析:TCR刺激によりKv1.3およびKCa3.1は免疫シナプスにZAP70、p56lck、CD3と複合体を形成し、中心部超分子クラスター(c-SMAC)から周辺部超分子クラスター(p-SMAC)に移動、細胞内Ca2+濃度の上昇とT細胞活性化が起こる。そこで、心不全の免疫シナプス形成にもKv1.3およびKCa3.1、ZAP70、p56lck、CD4、CD8、CD3が関与するのか、共焦点レーザー顕微鏡で観察する。 3. Kv1.3およびKCa3.1阻害剤のTeffおよび免疫シナプスへの影響:HF群で活性化していたTeffや免疫シナプスが特異的KV1.3およびKCa3.1阻害剤で抑制されるか検討する。PBMCを特異的KV1.3阻害剤PAP-1、またはKCa3.1阻害剤またはTRAM-34で処理後、TCR刺激を加え、パッチクランプでK+電流の減少に伴い、TN、TCM、TEM、TEMRA 、CD4+Thサブセット、CD8+サブセットの発現やサイトカイン産生量を解析する。また、シナプス形成にも変化を認めるか共焦点レーザー顕微鏡で観察する。 次年度の研究費の使用計画: 研究費は研究遂行に必要な消耗品、人件費、旅費などに本年同様適切に使用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度途中で、患者血中サイトカインの測定を行うCBA kit、および患者末梢単核球のT細胞解析を行うために使用していたflow cytometerが故障し修理不能となった。そのため異なるflow cytometerで解析をすることとなり、調整に非常に時間を要した。その結果、試薬や消耗品の使用が大幅に減少、注文が遅れ次年度納入となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本年度に使用予定であったCBA kitを用いた解析、およびFACSによるT細胞解析は順調に研究が進行予定である。さらに、パッチクランプによるT細胞のKv1.3およびKCa3.1機能解析、共焦点レーザー顕微鏡による免疫シナプス解析に必要な試薬や抗体などの消耗品の費用が高額となるため次年度使用額が必要である。
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