研究課題/領域番号 |
15K09131
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
伊藤 宏 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10232464)
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研究分担者 |
渡邊 博之 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80323145)
飯野 健二 秋田大学, 医学部, 講師 (30400485)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 心筋細胞 / アラキドン酸 / 炎症 / Oraiチャネル |
研究実績の概要 |
炎症は慢性心不全の基盤病態であると考えられており、心不全では重症度に応じて炎症性サイトカインが上昇することが知られている。しかし、その際心筋細胞や心筋線維芽細胞で働く細胞内メカニズムに関しては依然不明な点が多い。本研究は、「アラキドン酸誘発性Orai3活性化が慢性炎症下の心筋細胞障害や線維化のトリガーとなる」という仮説を立て、それを実証することを目的とした。 炎症が心筋障害を引き起こす臨床例として、ステロイド投与を行い壁厚が劇的に菲薄化したサルコイドーシス心筋症例をEur Heart J Cardiovasc Imaging に発表した。また、心房中隔欠損症には合併することがまれな感染性心内膜炎の例をIntern Med に、家族性地中海熱の慢性炎症の結果引き起こされた心アミロイド―シスの例を心不全学会に発表した。また、睡眠時無呼吸を治療することで心不全が改善するそのメカニズムの一つとして炎症の改善があることを報告した。 ノックアウトマウスを用いた基礎研究では、アンギオテンシンIIによってひきおこされる炎症を含んだ心筋障害が、Apelin-APJ axis シグナルの活性化によって減弱すること、逆にApelin の作用を減弱させるとその障害が促進することを明かにした。それら作用は、ApelinによるACE2発現の増強により引き起こされていた。以上からApelin-APJ axisは心筋炎症を含んだアンギオテンシンIIの心筋障害に拮抗するシグナルであると結論付け、発表した。また、アラキドン酸の細胞センサーとなっていると考えているOrai1, Orai3, TRPV4チャネルがラット心筋細胞に発現していることをin vitro の実験で確認している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床面での心筋炎症と心不全の関連については、症例報告も含め成果をえている。しかし、基礎実験でのアラキドン酸による心筋細胞のアポトーシス、オートファジー検出が実験手技の問題のためかうまくいかず、その点が遅れており以降の計画にも影響を与えている。 今後その実験手技の早期確立が望まれる。また、心筋線維芽細胞の培養技術も、安定した結果が得られておらず、今後克服すべき課題である。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたアポトーシス、オートファジー検出方法、心筋線維芽細胞の培養技術の安定化を早期に確立し、炎症性心筋細胞障害モデルでの、アポトーシス、オートファジーとOrai3の関連をin vitroで解析する。Orai3遺伝子過剰発現やOrai3遺伝子ノックダウンの心筋細胞死にたいする効果を判定する。TRPV4に関しては、そのアラキドン酸による活性化や心臓での発現は確認済みであるため、Oraiと同様、過剰発現や遺伝子ノックダウンの心筋細胞死にたいする効果を判定する。上記内容を確認したのち、TRPV4活性化とOrai3活性化で誘導される細胞内シグナルの違いを明らかにする。さらに、心肥大後に心不全へと移行するモデルマウスをTACにより作製し、心不全への移行とOrai3遺伝子発現との関連、Orai3のsiRNA または、優勢抑制型変異体Orai3を遺伝子導入することにより、心不全の移行を防ぐことができるかどうかを検討する。さらにそれらと並行してOrai3遺伝子K.O.マウスを作製、同マウスでのTAC心筋障害の減弱についての検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
心筋細胞のアポトーシス、オートファジー検出が実験手技の問題のためかうまくいかず、そのためin vitro でのOrai3遺伝子過剰発現やOrai3遺伝子ノックダウンの心筋細胞死にたいする効果を検討する実験ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞購入またはその培養関連費用に10万円。遺伝子工学関連費用(抗体購入など)に8万円を使用する予定である。
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