心臓突然死の最大の原因である心室細動に対して、その発症の危険性を確実に予測し、原因に基づいた適切な治療法を開発することは極めて重要な課題である。そこでまず、心室細動を家族性に発症している家系の血液サンプルを用いて、次世代シーケンサーによるゲノムワイド解析で原因遺伝子変異を探索したところ、発症者特異的にTMEM168遺伝子にこれまでに知られていない遺伝子変異を見出した。この遺伝子変異を持つTMEM168遺伝子産物を培養心筋細胞HL-1細胞に発現させ電気生理学的解析を行ったところ、野生型TMEM168またはコントロールGFPを発現させた場合と比較して、Naチャネル機能が有意に抑制されていた。一方、Kチャネル機能に変化は見られなかった。変異型TMEM168の導入によって、心筋Naチャネル構成分子であるNav1.5発現量が有意に低下していた。細胞生物学的、生化学的解析により、野生型および変異型TMEM168ともに核膜に局在し、変異型での局在変化は生じなかった。これらのin vitro実験結果をもとに、最終年度は、原因遺伝子変異をノックインした遺伝子改変マウスを作製し、in vivoでの機能解析実験を行った。変異型TMEM168ノックインマウスにカテコラミン刺激等を加えると、ヒトで見られたのと同様、心室頻拍、心室細動が出現した。このノックインマウスでは、in vitro実験結果と同様、Nav1.5の発現が低下していた。 以上より、本研究では心室細動に関わる新たな遺伝子変異を見出すことができた。さらに、その変異が心室細動を発症させるメカニズムをin vitro、in vivoの両面で明らかにした。
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