研究課題
野生型ならびにO型糖鎖付着部位のThやSer殘基をAlaに置換した変異型ヒトproBNP遺伝子をラット心筋細胞にレンチウイルスを用いて遺伝子導入し、その培養液を我々の開発したproBNP、Total BNPの測定系で正確に測定し、プロセシングを評価する系を用いて実験を行った。野生型proBNPでは培養液中のproBNP/total BNP比は40%であった。すなわち、通常では約60%が切断されると考えられる。一方、糖鎖修飾部位のThやSer殘基をすべてAlaに置換した変異型ではproBNPはすべてBNP32とNT-proBNPに切断された。このことからヒトproBNPのプロセシングで糖鎖修飾が重要な働きをしていることが明らかとなった。そこで7カ所の糖鎖結合部位で1箇所のみ糖鎖が結合する変異体を作成し、proBNP/total BNP比を検討するとTh71に結合するO型糖鎖が重要である他に、 Th48番目に結合するO型糖鎖も重要である事がわかった。Th71とTh48に結合する糖鎖は相加的に働くことも示した。他の5カ所のO型糖鎖は直接プロセシングに関係しないがTh71とTh48に結合する糖鎖を補助する働きをする。つまり他の5カ所のO型糖鎖だけではプロセシングに関係しないが、Th71とTh48だけでもプロセシングはそれほど低下しない結果が得られた。この2つのTh71とTh48に糖鎖を結合する酵素はsiRNAを用いた実験でGalNAc-transferase (GALNT) 1 and 2が関与する事を示した。さらにGALNT1 と 2の上流にはmicroRNA-30が関与する事を明らかにした。実際臨床例で、重症心不全では軽症心不全に比べてproBNP/total BNP比は増加しておりcGMP/BNP比は低下している事を示した。
2: おおむね順調に進展している
proBNPに結合する重要なproBNPの部位、その分子機序を明らかにしてきたが、ヒトproBNPのTh、Ser殘基に結合する糖鎖の実態は不明である。このアプローチ法としては、BNP免疫活性が非常に高い心不全患者のproBNPを精製し、質量分析にかけて解析することが一般的には考えられる。ただし、質量分析に供与するproBNPは現時点では10~100pmolくらいの純度の高い量が必要とされており、このような量を集める事は現状では困難である。また質量分析に供与するには精製が必要で、proBNPを精製するためにイムノアフニティ法が取られる事が多いが、今のところ精製に必要な適切な抗体はなく、このことも研究を困難にしている。最近我々はBNP濃度が約35000pg/mLと著明に高い症例を経験した。この患者のBNPの免疫活性の殆どがproBNPである事が我々の開発したproBNP測定法で確認できた。さらにポリエチレングリコールによる沈殿法でproBNP濃度は1.3%と低下、proteinGカラムを通すと3.3%と低下した。さらにゲル濾過法で、proBNPの免疫活性はIgGよりも少し大きい位置に溶出した。これらの結果からBNP免疫活性著明高値の原因としてproBNPにIgGが結合したmacro-proBNP血症によるものと考えられた。pH3のelution bufferにするとIgGははずれ、本来のproBNPの溶出位置に溶出したことがproBNPの免疫活性から確認された。今後このproBNP-IgG結合のmacro-proBNP血症を使用して、proBNPの精製を進めていき、ある程度の質量が得られたところで質量分析による糖鎖構造の解明を行っていく予定である。
このproBNPが約35000pg/mLと高い患者さんの血漿をproteinGカラムでproBNP-IgG分画のみを溶出し、この分画を凍結乾燥する。これをpH3.0のelution bufferに溶解し、ゲル濾過をかけると、IgGがはずれproBNPの溶出するfractionに純度の高い高用量の糖鎖の付いたproBNPが溶出されると考えられる。現在、患者さんの血漿も約10mL得られ、予備実験でこの考えが正しいかを検討しているところである。予備実験でうまくいく結果が得られれば、試料を全部使い、質量分析に供与する予定である。この方法の問題点は回収率にあると考えられ、proteinGカラムの溶出もpHをいろいろ変えて、どのpHが一番適切かを検討していく予定である。臨床例でもproBNPの病態生理学的意義に関する検討を行っている。これまでの検討で、心房細動例でproBNP/total BNP比が低い事を見いだしている。これは我々が以前に報告したヒト心房組織ではproBNPよりもBNP32の比率が高かったことと矛盾しない結果である。今後多数の症例を集めて、proBNPの心房細動における病態生理学的意義について解析していく予定である。
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