研究課題
難治性重症心不全の発症分子機序を解明し、心不全エピゲノム臨床診断法の確立を目指すため、重症心不全組織検体、独創的な超微細構造解析技術を利用し、分子生物学と病理学を臨床診療に応用する研究を行う研究である。独自に開発したクロマチンスコアを疾患の分子機序解明に活用し、慢性増悪進行型の難治性心不全の分子病態を明らかにすることを目的として「非可逆不全心筋」と「可逆性心筋」の分別指標の確立、新指標に基づく心不全モデル動物の重症度評価、難治性心不全の分子探索および病態の解明、の3つの戦略に分けて本研究に取り組んだ。細胞核クロマチン構造変化の定量化法「クロマチンスコア」計測法を確立するために以下の検討を行った。心不全の中でもリバースリモデリングの恩恵が大きい心筋症を対象とし、不全心筋細胞に特徴的な細胞核形態変化または心不全特異的遺伝子の病理学的エピゲノム解析を行い、不可逆進行型の非リバースリモデリング例の選別と、非リバースリモデリング例とリバースリモデリング例の対比から、未だ実用化されないヒト心不全可逆性(リバースリモデリング)の分子指標を探索し、臨床応用することを目的として検討を行った。クロマチン計測法を用いて、非リバースリモデリング(不可逆進行性)を検出する感度、およびリバースリモデリングの予測感度を検証し、さらに、ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム等網羅的な多層的なオミックス解析を行うことで、分子機序追究によるリバースリモデリングの病態解明、リスク層別化・予測系の構築、バイオマーカー同定、治療標的同定を行った。また、申請者らが同定したANP, BNP誘導エンハンサー領域CR9が、心不全を感知する遺伝子発現エンハンサー領域としての病態作用機序を解明するため、細胞解析系、生体モデル動物の検討を行い、CR9の活性化機序の解明を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
H28年度は(A)非可逆不全心筋と可逆性心筋の分別指標確立、(B)新分別指標に基づく心不全疾患背景の層別化、(C)CR9活性化機序の解明、について検討を進めた。(A)クロマチンスコア自動計測装置を完成とともに、蓄積した中等症心不全~最重症心不全症例を対象にした心筋生検病理サンプル解析を実施した。ヒト重症心不全組織のクロマチンスコアのパイロット解析により難治化症例に核内クロマチンおよび核膜クロマチンの特徴的な数値の変化を認めた。臨床症例を多施設に拡大して検討を進めている。(B)検討(A)において分別された2群の遺伝学的背景について疾患ゲノム解析および遺伝子発現解析を用いて検討を行った。それぞれの群に特徴的な変異、およびその遺伝子、そして各遺伝子発現変化を捉え、それらの機能解析を行っている。2群の内、核膜クロマチン不連続群において、心不全リバースリモデンリングの層別化に成功した心筋組織検体を用いて、ゲノム変異解析、RNA-seq解析、メタボローム解析を実施し、病態解明とその原因となる分子を探索した。既存心不全データベースとゲノム解析データから導き出される2群間の遺伝的背景の差異を検討し、病態形成の遺伝的素因と環境因子を明らかすべく検討を行った。(C)BNP発現の生体定量可視化に成功した心不全生体モニタリングマウスを用いて、心不全病態形成および薬剤性心不全などの対象となる薬剤心毒性の評価系を作製した。さらにCR9心筋細胞実験系を用いて、CR9活性化の分子機序を明らかにした。現在論文報告作成中である。
これまでの研究において、重症心不全の臨床病態の鑑別が可能な、独自のクロマチン構造解析技術を開発した。予定以上の進捗から得た成果をもとに、H29年度はさらに予定を前倒して検討を進める。(1)非可逆・可逆不全心筋の分別指標に基づく心不全モデル動物の重症度評価の多検体・多施設症例を用いた検討を行う。 重症化した心不全のみならず、中等症に至るまで様々な心不全症例のクロマチンスコアを検索する。さらに、自動計測システムをさらに進化させ、解析時間と験者間格差をさらに均一化できるように解析システムの開発を行う予定である。それにより、心不全難治化の臨床病期と不可逆転(point of no return)の判別可能な臨床検査システムとしての開発を目指す。(2)心不全難治化を規定する分子探索・機能解析による難治化病態の解明として、難治性心不全の不全心筋のRNA-seq解析により、病理指標に相関する候補分子をリスト化する。疾患ゲノム解析とともに情報を統合してトランスオミックス解析を行い疾患背景を含めた心不全の層別化を行う。(3)さらに心不全のマーカーであるBNPエンハンサーCR9の活性化機序を解明し、難治化に生じた心筋細胞変化と類似の現象を捉えた場合の心筋細胞における遺伝子発現制御機序を解明し、病理クロマチン情報とともに心不全の難治化の分子生物学的意義を解析する。以上により、心不全新規病期分類別、ゲノム・エピゲノム変異の探索研究による新規分子マーカーの同定が可能となる。①新規開発した心不全リバースリモデリングの診断法の実利用を目指して臨床研究を実施するとともに、②新規心不全診断とその分類に基づく心不全原因同定を実施することができる。
受託解析予定であったものが、自施設での解析が可能となり、解析単価を節約することができた。年度計画で解析予定の検体数は順調に解析できており、研究計画に遅滞はない。
2017年度に生じる試料検体について、研究成果の結果をより強固なものとするために、解析検体数を増やすことができるため、その解析費用にあてる予定である。研究計画の内容に変更はない。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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