研究課題/領域番号 |
15K09161
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
早川 朋子 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30420821)
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研究分担者 |
松下 正之 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30273965)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血管平滑筋細胞 / 動脈硬化 |
研究実績の概要 |
動脈硬化症の大きな原因は、血管平滑筋細胞(Smooth muscle cell: SMC)脱分化とそれに伴う増殖と遊走であることが知られている。閉塞血管に対して薬剤徐放性ステント移植が広く行われているが、10%もの高率でSMC増殖による再狭窄が起こることから、SMC脱分化を強力に抑制する新薬の開発が喫緊の課題である。このような背景のもと、申請者らは「動脈硬化様の合成型SMCに対してヒストン修飾酵素Nsd1を抑制することにより、正常血管に近い収縮型SMCへ移行できる」との発見をした。これは、Nsd1阻害剤が有効な動脈硬化治療薬になる可能性を示唆している。しかしNsd1の働きや転写機構がほぼ不明であることから、本研究ではNsd1によるSMC分化・脱分化機構を明らかにし、Nsd1を標的とした次世代型動脈硬化治療薬の開発に取り組むこととした。 これまでの主な研究実績は、CRISPR/Cas9システムを用いてNsd1遺伝子欠損マウスを作製したことである。gRNA-Cas9発現ベクターを前核期受精卵にインジェクションし、受容雌マウス8匹に移植した。受容雌マウスから生まれたF0産子は合計25匹を確認した。これらのうち成育した個体17匹の組織よりDNAを調整し、ダイレクトシークエンスを行った。Cas9標的領域の配列を解析した結果、9匹は変異が認められなかったが8匹には塩基配列の欠損または挿入といった変異が認められ、Nsd1遺伝子改変マウスの作製を確認した。 さらに、動脈硬化巣で多く観察される合成型SMCと類似した性質を持つSMCの探索を行った。その結果、長期間培養を続けたSMCが合成型SMCであることを見つけた。これにより、合成型SMCから収縮型SMCへの形質転換の解析が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に行った3つの実験の進捗状況を箇条書きにし、具体的な実験内容と結果、さらに自己評価を以下に示す。 1)Nsd1遺伝子ホモ欠損マウスの作製。昨年度に雄雌のヘテロマウスを交配したが、ホモマウスは生まれてこなかった。ただし、これまでに発表された論文ではES細胞より作製したNsd1遺伝子ホモ欠損マウスは胎生致死だったため、今回ホモマウスが胎生致死であったのは予想していた結果である。しかし、さらに交配を繰り返した結果、出生頻度は低いが、ホモ欠損マウスを得る事が出来た。自己評価 ホモ欠損マウス作製を達成した。 2)Nsd1欠損マウスによる頸動脈結紮モデルの作製。野生型、Nsd1ヘテロ、ホモ欠損マウスをそれぞれ6匹用いて頸動脈結紮モデルを作製した。結紮3週間後に頸動脈を採取し、ホルマリン固定を行った。HE染色を行った結果、ホモマウスは野生型マウスに比較して内膜肥厚が起こった面積が有意に低下していた。 自己評価 頸動脈結紮モデル作製と解析を達成した。 3)合成型SMC培養系の確立。正常ラット大動脈より調製したSMCを長期間培養した結果、正常な平滑筋の収縮機能を喪失し、動脈硬化巣で多く観察される合成型SMCに近い性質をもつSMCに形質が変化することを発見した。自己評価 合成型SMC様の培養系を確立することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況より検討した研究の推進方策を箇条書きにし、具体的な実験計画を以下に示す。 1)Nsd1ホモ欠損マウスによる頸動脈結紮モデルの解析:野生型、Nsd1ヘテロ欠損マウスの頸動脈結紮モデルの解析を行い、野生型マウスの結紮部位に観察される内膜肥厚が、ヘテロ欠損マウスで低下するかを調べる。 2)Nsd1と結合する転写因子の同定:Nsd1と直接的に相互作用する因子の同定に関して、現在難航している。これまでは転写因子の探索を行ってきたが、今年度は転写因子の中でも核内受容体型転写因子に特化することとする。方法は以下の通りである。転写因子XとNsd1の抗体を用いて免疫沈降・ウエスタンブロットを行い、これらの結合を確認し、転写因子の抗体を用いてChIP-PCRを行う。転写因子XとNsd1が同じ領域に結合するか検討する。転写因子XをsiRNAによって抑制して(Fig2Cと同じ実験)、Nsd1抑制と同様に脱分化SMCへ移行するか確認する。 3)SETドメインの機能アミノ酸の同定とNsd1阻害剤の作製:Nsd1阻害剤作製を目的とした機能アミノ酸の同定は、昨年度に引き続き解析を行う。SETドメインに点変異を網羅的に導入して、機能アミノ酸を探索する。その後、Nsd1阻害剤の探索を行い、動物モデルにより阻害剤の有効性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Nsd1同定に必須であるNsd1抗体が発売停止になったため、新規にNsd1抗体を作製する必要が出たことが原因である。さらに、遺伝子改変マウスの作製に予想外の時間がかかり、F0産子がなかなか生まれてこず複数回の交配を行った事が原因である。以上の理由によりNsd1と結合する転写因子同定が行えず、抗体の購入が次年度になったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は78000円である。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでに使用したNsd1抗体と同様の抗原を用いて新規に抗体を作製する。この抗体を用いて免疫沈降、TOF MS/MS解析を行い、SMCにおいてNsd1と結合するタンパク質の網羅的探索を行う。さらにChIP sequenceの結果と比較して転写因子を同定する。同定した転写因子のChIP sequenceを行い、Nsd1と同時に結合するDNA領域を調べる。Nsd1、HA抗体を用いて、ChIP sequence解析を行う。Nsd1結合DNA配列に対しgenomatrix社製GGAクラウド型解析サーバーを用いて転写因子が結合する特異的配列を探索し、28年度のMS解析データと比較しNsd1と結合する転写因子Xを推測する。
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