研究課題
脂質メディエーターは、生活習慣病の他に慢性炎症を基盤とするアレルギーや癌の病態に関与するなど、多彩な機能を有することが明らかになりつつある。本研究は、これまで肺における作用を報告されていない新規脂質メディエーターに着目して、難治性呼吸器疾患である間質性肺炎(Interstitial pneumonia:IP)における役割の解明を目的としている。昨年度中に、IPモデルの作製法は確立した。そして、新規脂質メディエーターであるアンジオポエチン様因子2(Angiopoietin-like protein 2:Angptl2)が、野生型マウスのナイーブ肺ではⅠ型、Ⅱ型肺胞上皮細胞と肺胞マクロファージに発現していること、IP病変部ではナイーブ肺と比較してAngptl2が強発現していること、IPモデルの肺胞洗浄液ではAngptl2蛋白濃度が上昇していること、Angptl2 欠失マウスにIPを誘導すると難治性間質性肺炎である肺線維症が増強することを確認した。本年度は、IPモデルにおけるAngptl2が肺局所に由来するのか、それとも骨髄に由来するのかを特定するために、野生型とAngptl2欠失マウスの骨髄細胞を入れ替えたキメラマウスを作製して検証した。その結果、IPモデルでは肺局所由来のAngptl2が機能していることを確認した。これらの結果は肺局所由来のAngptl2が肺線維症を抑制する作用を有する可能性を意味している。肺線維症へのAngptl2の関与を示した報告はこれまでなく、新しい観点による病態解明と新規治療法の開発につながる極めて重要な成果である。
2: おおむね順調に進展している
本年度はIPモデルにおけるAngptl2の由来組織を確認するために、野生型とAngptl2欠失マウスの骨髄細胞を入れ替えたキメラマウスを作製して研究を行い、意義のある結果を得ることができた。これらの成果から、計画していた研究目的は、現在までおおむね順調に進展しているといえる。
今後は、Angptl2が線維化を抑制する機序を解明する。具体的にはIn vitroで線維芽細胞株にAngptl2を添加して、各種サイトカイン、成長因子の動向を解析する。
当研究はAngptl2を始めとして複数の遺伝子欠失マウスに呼吸器疾患モデルを誘導して遂行している。これまでの研究の蓄積から、マウスのジェノタイピングや疾患モデルの作製効率が上がり、経費を削減できたから。
遺伝子欠失マウスを用いて間質性肺炎における新規脂質メディエーターの役割の研究、学会、論文発表における使用を予定している。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件)
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