慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコ煙に惹起される気道炎症、リモデリングによる非可逆性閉塞性障害に特徴づけられる。吸入ステロイドにより炎症制御が可能である気管支喘息と異なり、COPDの気道炎症は十分な制御戦略が確立されておらず、気管支拡張剤による対症療法的治療に留まっている。そのため、新規治療法の確立が急務である。 PI3K(Phosphoinositide 3-kinase)-Aktシグナル伝達経路は、血管新生、アポトーシス、細胞増殖、炎症性サイトカインの産生などに関わるシグナル伝達経路であり、COPDの気道炎症への関与が知られている。PI3KはPTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10)による調節機構が備わっているが、PTENのCOPD病態への関与は解明されていない。本研究では、非喫煙健常人22名、喫煙健常人31名、COPD患者49名から気管支鏡下に気道上皮細胞を採取し、PI3K、PTENの発現レベル及びCOPD病態への関与を検討した。 COPD患者では健常人に比較して、PI3K発現レベルは変化ないものの、PTEN発現レベルは有意に低下していた。また、その発現レベルは喫煙歴(pack-year)と有意な逆相関を示した。PTEN発現レベルは、%FEV1、FEV1/FVC、%Dlcoなどの肺機能と有意な相関を示し、COPD病態への関与が示された。 COPD患者気道上皮細胞ではPTEN発現低下が認められ、COPD病態への関与が示された。COPD治療における新規治療標的として、PTEN発現制御の有用性が示された。
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