研究課題/領域番号 |
15K09188
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
杣 知行 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (40307921)
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研究分担者 |
中込 一之 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (60401113)
小林 威仁 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90618266)
原 健一郎 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70436301)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ATP / 重症喘息 / 喀痰好中球比率 / 好中球エラスターゼ / 好酸球遊走能 / P2レセプター / 呼吸機能 / エンドトキシン |
研究実績の概要 |
本研究では、Danger signalの一つであるATPによる喘息病態形成の修飾に関して、臨床病態への寄与およびそのメカニズムの解明を進めている。 臨床病態では、健常者18人に対し喘息患者73人で喀痰中ATP濃度が有意に上昇し、ERS/ATS重症喘息ガイドライン基準に基づく重症喘息に関係すること、FVC低下などの呼吸機能障害に影響すること、喀痰中好中球比率と相関関係にあることを見出した。今年度はさらに、活性化好中球の指標として喀痰中好中球エラスターゼ(NE)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)を測定した。喘息患者でNEはATPと相関し(r=0.44、p<0.0001)、重症喘息においても認められた(r=0.43、p<0.05)。また喀痰中EDNとも同様の相関関係が示され、喀痰中好中球比率(r=0.38、p=0.001)および喀痰中好酸球+好中球比率(r=0.35、p<0.03)とも相関することを見出した。一方MPOには上述した好中球由来蛋白、細胞とは相関が認められなかった。以上より喘息患者では活性化好中球による気道炎症進行にATPが寄与しうることが推測された。 in vitroでは、喀痰中エンドトキシン濃度が重症喘息で有意に上昇していることを確認し、LPS刺激を契機に好中球活性が惹起されると推測し、細胞実験を進めた。前年度までに当研究室で確立している好酸球組織間隙遊走能実験にて、LPS刺激下活性化好中球への好酸球の組織間隙遊走能が、ATPの対応受容体P2レセプター阻害薬、oATPで抑制されることを見出していた。今年度は同事象が有意差を示して認めらえることを示した。以上より、ATPはLPS誘因活性化好中球による好酸球集積を誘導し喘息の病態形成に寄与していると推測された。抗P2レセプター抗体による責任レセプターの確認とともに、現在以上の結果をまとめた論文化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は喘息患者の喀痰中の好中球由来炎症性糖タンパクを測定し、気道中ATPとの関連性を検討することでATPによる気道炎症進展のメカニズムの解明を進めた。また好酸球および好中球の混合性気道炎症の誘導因子としてエンドトキシンとの関連性をin vitoroの検討をさらに進めた。P2レセプター阻害剤によってATPがエンドトキシン活性化好中球による好酸球集積に寄与することを確認し、臨床検討で見出した事象のメカニズムの解明を進めることができたと判断している。 一方で、マウスモデルによる上記の事象の確認実験が進展しなかった。臨床的検討では、血液や呼気凝縮液などでのATPの変動が未検討にとなっている。今年度は、症例の集積に期間が費やされてしまったのがその理由と考えている。末梢血を活用した研究では、昨年度に続き、各種病原体関連分子パターン による顆粒球活性化によるATP放出能を検討する最適な実験条件が見出されずに終了した。 したがって本年度の研究は、データをまとめ論文として公表することが可能なレベルに達している点で計画どおりに進展していると判断している。ただし、当初3年間で終了するとした内容からは遅れていることから総合的にやや遅れていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は分担者と分担者との連絡を密接に行い動物実験を進める。 またより侵襲度が低い方法でのATP測定を探索するために呼気凝縮液中のATP測定が可能かを検討する。さらに喀痰中炎症細胞比率を基準とした喘息の分類を行い、サブタイプ別のATPの差異や炎症性メディエーター、呼吸機能との関連性を検討し、重症喘息における喘息のエンドタイプ解析を進めていく。 In vitroによる検討ではP2レセプターのタイプ特異的抗体による検討を進め責任レセプターの同定を進めていく。また各種病原体関連分子パターンによる顆粒球活性化によるATP放出能を検討し、LPS刺激による活性化好中球への好酸球遊走にATPが関与していることの傍証を確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は患者対象とした臨床観察研究、in vitroおよびin vivoのパートに分割して研究を行っている。臨床観察研究およびin vitro研究は比較的順当に進んだ。研究の進展に伴い助成金も同様に比較的に順当に使用されている。一方で購入試薬が予定より維持されていたこと、追加実験が必要となったこと、また日常臨床の実務が増えたことによる遅延が重なり、今年度の購入試薬が予定額より少なくなった。1年延長することを決定し、使用する追加の試薬購入および研究参加者への謝礼金の請求をまだ行っていないことによる発生している残金とともに助成金を使用する。 またin vivoの研究が分担者の追加等による影響が発生し、遅延しているために相当額が残っている。そのため1年延長し、次年度に行うこととした。研究実行に関しては、分担者に密接に連絡を取り進めていく。
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