老化関連疾患である肺気腫と肺線維症との相違点を細胞老化とsenescence-associated phenotype(SASP)の観点から明らかにするために、肺癌手術時に採取されたCOPD(肺気腫)、肺線維症(特発性肺線維症、膠原病関連間質性肺炎、気腫合併肺線維症)および対照患者のパラフィン包埋肺組織から薄切切片を作成し、免疫組織染色を行った。その結果、1)肺線維症とCOPDにおいて上皮細胞の細胞老化 (抗p16、p21抗体陽性細胞数)が生じているが、その程度は肺線維症のほうがCOPDに比べて高度なこと、2)肺線維症とCOPDのいずれにおいても老化細胞ではSASP(phospho-NF-kB陽性率)が生じていること、3)肺線維症においては低酸素刺激で発現するcarbonic anhydrase IX (CA IX) 陽性の上皮細胞および間質細胞が多数認められることが明らかにされた。CA IX陽性細胞は、COPDや健常肺組織では認められず、肺の線維化の成因に特異的に関与している可能性が考えられたため、ブレオマイシン肺線維症マウスモデルの肺組織を用いて検討したところ、ヒトの特発性肺線維症と同様に間葉系細胞および一部の上皮細胞にCA IXの発現が認められた。そこでさらにCA IX阻害薬であるU-104をマウスの腹腔内に投与したところ、ブレオマイシンによる肺線維化のマーカーである肺ヒドロキシプロリンの減少と肺機能(エラスタンス、コンプライアンス、組織エラスタンス)の改善が観察された。以上の結果から、肺気腫と特発性肺線維症では細胞老化が生じているが、相違点として肺線維症における低酸素刺激による細胞の活性化が考えられ、特にCA IXが肺線維症に対する治療標的になる可能性が考えられた。
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