特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)は、上皮細胞損傷と、引き続く異常な修復がその病態形成に重要であり、病理学的には老化した異常な化生上皮細胞と、筋線維芽細胞の増殖が特徴とされている。Prostaglandin(PG)E2はCyclooxygenase (COX)により合成される代表的な炎症制御物質であり、様々な作用機序を介して呼吸器疾患の病態と密接に関連する。IPFの化生上皮細胞では、PGE2産生で重要なCOX-2の発現が増加しており、PGE2産生も亢進している可能性が高い。一方、IPFの気道被覆液ではPGE2は低下しているとの報告もあり、必ずしも一定の結果が得られていない。PGE2には抗線維化作用があり、IPFの線維芽細胞でのPGE2の産生低下が、線維化進展に関与すると報告されている。安定性に乏しいPGE2の測定方法などの問題から、これまでの過去の報告では、IPF肺の微小環境における実際のPGE2濃度は、正確には測定できていない。そこで、本検討では、IPFを含む慢性線維性間質性肺炎(Chronic Fibrosing Interstitial Pneumonia:CFIP)におけるプロスタグランジンE主要尿代謝物(PGE-MUM)測定の有用性を検討した。コントロール群に比べ、CFIP群ではPGE-MUMが有意に増加していた。さらに、CFIP群ではPGE-MUM値が画像上の線維化スコア(Fibrosing Score:FS)と相関し、肺拡散能(%DLCO)と逆相関した(肺病変高度進展例を除く)。以上より、PGE-MUMはCFIPにおける肺線維化の有用なバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。また、IPFの肺組織では化生上皮細胞のCOX-2発現が増加しており、同細胞がIPFでの主要なPGE-MUMの産生源と考えられた。
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