研究課題/領域番号 |
15K09196
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
権 寧博 日本大学, 医学部, 准教授 (80339316)
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研究分担者 |
黒田 和道 日本大学, 医学部, 准教授 (50215109)
木澤 靖夫 日本大学, 薬学部, 教授 (80211192)
丸岡 秀一郎 日本大学, 医学部, 准教授 (80599358)
山岸 賢司 日本大学, 工学部, 講師 (90460021)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気道上皮 / 喘息 / COPD / エクソソーム |
研究実績の概要 |
エクソソームなどを含む細胞外小胞 (extracellular vesicles; EVs)は、近年、新たな診断・治療のバイオマーカーとして注目を集めている。EVsは内部にRNAを含有し、細胞間コミュニケーションに利用されていると考えられている。我々は本研究において、気道に分泌されるEVsを気管支肺胞洗浄液から抽出する方法を検討した。ショ糖濃度勾配法で肺胞洗浄液から抽出したEVsからRNAを精製し、次世代シークエンス法によってRNAを分析する方法を、マウス喘息モデルを用いて検討した。ハウスダストダニ(HDM)アレルゲン刺激後の気道に分泌されるEVsにおけるmRNA発現を網羅的に分析したところ、肺胞洗浄液中で刺激後にEVsが増加することが観察された。このEVs中のmRNAを網羅的に解析したところ、IL-33を含む合計235の遺伝子が増加していることが観察され(p <0.05および> 2倍)、この結果のpathway analysisによってIL-4およびIL-13を発現制御の上流分子として同定した。我々の結果は、EVsがアレルゲン刺激による気道炎症におけるTh2型免疫応答を反映した遺伝子情報を内包していることを示唆している。さらに、同モデルにおけるEVs中のmiRNAについても解析を行った。 HDM刺激後に、EVsで139個のmiRNAの発現に有意な変化をもたらし、そのうち54個のmiRNAは、HDM刺激後に肺組織でも上昇がみられるものであった。 肺胞洗浄液中のEVs内miRNAがTh2免疫を標的とするmiRNAを介して気道粘膜組織におけるmiRNAの変化を推測することができることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの気管支肺胞洗浄液から安定的にEVsを分離する方法を確立し、EVs内にある微量のRNAやmiRNAをRNA-seq法を用いて次世代シークエンシングにより安定的に解析する手法を確立することができた。これにより、昨年のエンドトキシン暴露モデルに加えて、喘息モデルにおいてもエクソソーム内のRNA遺伝子の網羅的解析を行い、EV内で喘息病態に関連して増加する特異的な遺伝子を同定することができた。現在、ヒトの血液や肺胞洗浄液から安定してEVsを抽出する方法を検討中であり、動物実験において得られた知見をヒトのEVsに応用し、新たな分子マーカーを同定する予定である。本研究では、ヒトの血液や肺胞洗浄液からエクソソームを採取し、臨床的に有用な分子標的を同定することをひとつの目的としていたが、動物実験から得られた候補分子を、ヒトの臨床研究でその意義を検証するまでには至らなかった。その原因は、肺胞洗浄液からは局所の炎症を反映したEVsを採取することが可能であることが検討の結果明らかになったが、血液中から局所で分泌されたEVsを選択的に分離することが困難であったことによる。また、血液中のEVsから、局所病変のマーカーとなりうるEVs内分子を同定することができなかったことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、気管支喘息やCOPD患者の血液検体から採取されるEVsから抽出されるRNA量に限界があり、また、解析感度を上げて、かつ安定的に目的分子の発現量を測定出来る方法を確立することができなかったため、比較的多量の臨床検体が必要となり、多数の候補遺伝子をqPCR法で解析することができなかった。また、次世代シークエンス法による解析は、解析コストやランニングコストが高く、また、解析ソフトウェアの使用料も高価であったため、多くの検体を解析することが予算的に不可能であった。よって、臨床データに照らし合わせ、臨床的に有効性であると評価できるようなEV内分子を同定することができなかった。ナノテクノロジーやコンピューター技術をベースとした次世代シークエンシング、OMICS解析などの生物情報技術解析の発展はめざましく、新たな技術を組み合わせることにより、より正確で、より安価に微量の検体からEVsを解析することが今後さらに可能となると考えられる。本研究においても、新たな情報解析手段を導入し、さらに精度の高い分析を今後積み重ねて行く予定である。
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