研究課題
プローブ型共焦点顕微鏡(pCLE)を用いたびまん性肺疾患の病理診断法の確立を目的として、気管支鏡下にpCLEで末梢肺病変の微細構造を観察し、各種びまん性肺疾患に特徴的な所見を探索した。まず、早期の肺胞蛋白症例に対してpCLE画像と病理、画像所見との比較解析を行った。肺胞蛋白症の初期例ではCT上、crazy pavement appearance所見を呈する小病変部が散在しているが、気管支超音波技術(EBUS-ガイドシース法)によって正確に病変部に到達する事ができる。この技術を応用して病変部に残したガイドシースを通してpCLEを病変に到達させた。病変部のpCLE画像では、蛍光発色の増強した巨大細胞群、肺胞内を流動する淡い蛍光を有する無構造物質、非常に細い線状所見が特徴的に見られ、これらは、蛋白を処理できない泡沫状の巨大マクロファージ、肺胞内のPAS陽性物質、線維化を来していない肺胞壁 にそれぞれ相当する所見と考えられた。これらの所見は肺胞蛋白症進行例でのpCLE像の既存の報告と一致しており、我々の検討で肺胞蛋白症は初期段階から、病変部には進行期と同じような病態が形成されており、病変の成立は不均一に起こることが示唆された。また間質性肺炎についてはUIP,NSIP,OPについて外科的生検あるいは臨床検査所見から診断確実と考えられた症例のみを対象として、同意の得られた症例に通常の気管支鏡検査施行時にpCLEによる観察を同時に行い、画像集積と解析を行った。その結果、UIPでは末梢肺の自家蛍光が全体に減弱する傾向にあり肺胞壁も断片化、圧縮している所見が多かった。これに対してNSIP, OPでは肺胞内のマクロファージの自家蛍光が強く、数も増加していた。肺胞壁はNSIPでは圧縮所見はあるもののUIPに比較して断裂、断片化の所見は少ない傾向であった。
2: おおむね順調に進展している
肺胞蛋白症は比較的稀な疾患であるが、胸部CT検診の広がりもあり、肺野のごく一部にcrazy pavement appearance を呈する早期症例4症例を経験することができた。肺胞蛋白症では特に特異的なpCLE像を得る事ができ、特徴的なCT画像とも組み合わせれば、生検を必要とすることなくpCLE所見を得るだけで確定診断可能な疾患の一つになり得ると考える。現在、肺胞蛋白症のpCLE画像知見の解析結果を整理して、投稿準備中である。一方、間質性肺炎については、一つの特徴的なpCLE所見のみで疾患を代表できるものではなく、UIP, NSIP, OPそれぞれ画像所見パターンの特異的な組み合わせを抽出する方法がpCLEによる間質性肺炎鑑別診断の具体的手段として妥当であろうという仮説に至った。これは外科的肺生検などでの組織像による診断も、基本的には病理所見パターンの組み合わせによっていることを考えれば当然ともいえる。一方で、気管支鏡下のpCLE画像には呼吸性変動によるぶれが大きく影響すること、任意の気管支に挿入できるとはいえプローブを経気管支的に挿入する以上、得られる画像が直線上に分布する極めて狭い領域に限定されること、などから画像のsamplingが真にその肺領域を代表する所見なのかどうかということが問題にあげられた。現在、外科的肺生検を行った間質性肺炎の新鮮標本を用いて切除断面にpCLEプローブを接触させて得られた画像所見を病理標本と対比させながら解析を進めている。呼吸による変動がなく、安定かつ明瞭な画像をより広い範囲で観察でき疾患別の画像所見パターンの解析に進んでいる。成績の一部は呼吸器学会、呼吸器内視鏡学会、Annual meeting of American Thoracic Societyで発表済みあるいは発表予定である。
間質性肺炎、特に慢性の線維化を来すUIP NSIPにおいて、前述の新鮮外科的生検標本を用いたex vivoのpCLE像の観察例を重ねて、病理所見と対比させたpCLE像のパターンを確立する。典型的なUIP およびNSIP 病理所見を呈する症例のpCLE画像から、いくつかのパターンを抽出し、2疾患の鑑別に有用な所見の選定を行った。今後、これをCPFEなど他の慢性線維化を来す疾患のpCLE画像との異同を検討中である。また気管支鏡下に行ったpCLE像との比較対比も開始している。また、鑑別診断のために有用な特徴的pCLE画像パターンの検索のために、画像の動画データをcomputerによるdeep learningの手法を用いて2疾患の特徴的な画像所見を抽出することも計画中である。このためにはUIP, NSIPそれぞれの外科的生検検体をデータ抽出コホート(各疾患5例ほどを予定)として解析し特徴的パターンを選び出し、これをvalidation コホートで評価する手法を考慮している。さらに別の視点として、肺胞マクロファージのpCLEによる輝度が疾患毎に非常に異なることに注目しており、間接的ながらびまん性肺疾患の鑑別に応用できないか検討中である。これまでの我々の知見では器質化肺炎のfoamy macrophages, 重喫煙者肺にみられるマクロファージなどは自家蛍光が強い。一方でUIPの線維化の強い部に存在するマクロファージの蛍光は弱い。これらは、これまでにない新知見であり、単に鑑別診断の指標になるだけでなく、マクロファージの機能異常とびまん性肺疾患の成立の関わりを示唆する可能性があり、in vitroでの気管支肺胞洗浄(BAL)で採取したマクロファージのサイトカイン産生profileや形態異常との関連も今後解析する予定である。
臨床症例の多寡によって研究消耗品などの消費も一定ではないので、今年度の使用金額が予定より少なくなった。
来年度、さらに症例を増加して研究の一定の成果をまとめるため、研究消耗品を中心に使用予定である。
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