研究実績の概要 |
本研究は、悪性胸膜中皮腫から癌幹細胞を単離・同定し、その遺伝子発現プロファイルを明らかにすることで治療応用に繋げることを目的とする。悪性胸膜中皮腫にみられる癌抑制遺伝子NF-2の不活化によって、遺伝子産物であるMerlinの発現が低下すると、その下流シグナル分子である焦点接着キナーゼ (FAK)の活性が上昇する。FAKは癌幹細胞の増殖と生存に必須のシグナル伝達経路であることから、FAKを制御することで癌を治癒に導くことができる可能性がある。最近、悪性胸膜中皮腫を対象としたFAK阻害剤の国際共同治験が実施されたが、標的となる癌幹細胞の遺伝子変異プロファイルやマーカー分子は明らかにはされていない。平成27年度は、悪性胸膜中皮腫細胞における抗癌剤感受性に関連する遺伝子変異、治療標的となり得る遺伝子変異、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索するために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異及び融合遺伝子解析を実施した。15種類の悪性胸膜中皮腫細胞株における解析結果から、融合遺伝子は検出されなかったが、癌幹細胞関連遺伝子及び癌関連遺伝子を含めた網羅的遺伝子変異を同定・解析中である。また、これらの悪性胸膜中皮腫細胞株は、抗中皮腫活性を有する殺細胞性抗癌剤であるCisplatin, Pemetrexed, Gemcitabineに対して異なる薬剤感受性パターンを示した。 本研究を継続することによって、悪性胸膜中皮腫に対する癌幹細胞を標的とした新しい治療法の開発が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、悪性胸膜中皮腫における抗癌剤感受性と関連する遺伝子異常、治療標的となり得る遺伝子異常、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索するために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異及び融合遺伝子解析を実施した。次世代シーケンスは、ライフテクノロジーズ社製のIonProtonを用いて実施した。遺伝子変異解析及び融合遺伝子解析には、Oncomine Comprehensive Assayを用いた。本アッセイでは、DNA解析によって、ターゲットを約170の癌遺伝子及び癌抑制遺伝子に絞り込んだ解析を行うことが可能である。また、同様にRNA解析によって、22の融合遺伝子の発現解析が可能となる。15種類の悪性胸膜中皮腫細胞株(Mero-14, -25, -41, -48a, -82, -83, -84, -95, NO36, ONE58, HMMME, ACC-MESO-1, ACC-MESO-4, JU77, LO68)から核酸を抽出し解析に供した。同パネルによる解析結果から、融合遺伝子は検出されなかった。現在、癌幹細胞関連遺伝子を含めた網羅的遺伝子変異を同定し、解析中である。また、予備実験の結果から、悪性胸膜中皮腫細胞に抗癌剤を曝露することによって、癌幹細胞を誘導できることが示されたため、抗中皮腫活性を有する殺細胞性抗癌剤による15種類の悪性胸膜中皮腫細胞株の増殖抑制効果を検討した。Cisplatin (CDDP), Pemetrexed (PEM), Gemcitabine (GEM)を72時間、各細胞株に接触させ、50%増殖抑制濃度(IC50値)を算出した。各細胞株に対する、各種抗癌剤のIC50値は、CDDP 0.304~42.3μM, PEM 0.102~>100μM, GEM 0.008~>1μMであり、15種類の悪性胸膜中皮腫細胞株は、各種抗癌剤に対して、異なる薬剤感受性パターンを示した。
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