本研究は、悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma: MPM)から癌幹細胞を単離・同定し、その遺伝子発現プロファイルを明らかにすることで治療応用に繋げることを目的とする。MPMにみられる癌抑制遺伝子NF-2の不活化によって、遺伝子産物であるMerlinの発現が低下すると、その下流シグナル分子である焦点接着キナーゼ (FAK)の活性が上昇する。FAKは癌幹細胞の増殖と生存に必須のシグナル伝達経路であることから、FAKを制御することで癌を治癒に導くことができる可能性がある。最近、MPMを対象としたFAK阻害剤の国際共同治験が実施されたが、標的となる癌幹細胞の遺伝子変異プロファイルやマーカー分子は明らかにはされていない。平成27年度は、ヒトMPM細胞における抗癌剤感受性に関連する遺伝子変異、治療標的となり得る遺伝子変異、疾患特異的な遺伝子変異パターンを探索するために、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異及び融合遺伝子解析を実施した。平成28年度は、MPM13例の胸膜腫瘍検体について、同様の方法にて遺伝子発現解析を行った結果、BRCA1-associated protein 1 (BAP1)遺伝子のmissense mutationが、13例中5例 (38%)に検出された。さらに、breast cancer susceptibility gene 2 (BRCA2)遺伝子及び結節性硬化症の原因遺伝子であるTSC1遺伝子の変異が新たに検出された。平成29年度は、集積された遺伝子変異データを基に、疾患関連変異データ解析ソフトを用いて、生物学的に重要と考えられる遺伝子変異の抽出を試みた結果、細胞株1株(ONE58)及びMPM1例に、BRCA2の病的変異を確認した。本知見は、BRCA2遺伝子変異陽性のMPMに対して、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤が有効である可能性を示唆する。
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