研究課題/領域番号 |
15K09202
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構東京病院(臨床研究部) |
研究代表者 |
田下 浩之 独立行政法人国立病院機構東京病院(臨床研究部), その他部局等, その他 (00407933)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肥満 / 喘息 / レプチン / アディポカイン / 線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
背景:肥満は喘息のリスクファクターであると同時に、肥満喘息患者は喘息コントロールが悪く、喘息治療に対する反応性も悪いことが知られている。この原因としては、肥満により物理的に呼吸機能が低下することに加え、肥満に伴い増加した脂肪細胞から産生されるレプチン等のアディポカインの作用により、気道炎症が増悪することが明らかになりつつある。しかしながら、レプチンによる肺線維芽細胞に対する影響は明らかにされていない。 目的:レプチンが肺線維芽細胞に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。 方法:正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)に、レプチンおよびTNF-等の炎症性サイトカインを作用させ、これらの細胞のIL-8、MCP-1等のサイトカイン産生を、realtime PCRおよびCBA(Cytometric Bead Array)アッセイにより解析した。 結果:NHLFにレプチンを作用させ、4時間後にmRNAを回収し、realtime PCRを行ったところ、レプチンの濃度依存的にIL-6、IL-8、MCP-1、EotaxinのmRNA発現量が増加し、10μMで最大の効果が得られた。また、遺伝子発現の増加と同様に、NHLFにレプチンを作用させ、24時間後に培養上清を回収し、CBAアッセイを行ったところ、培養上清中のIL-6、IL-8、MCP-1の値は、レプチンの濃度依存的に増加し、10Mで最大の効果が得られた。 考察:肥満が喘息を増悪させる機序の一つに、レプチン刺激による肺線維芽細胞からのサイトカイン、ケモカイン産生の亢進が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究として、まずはヒト正常肺線維芽細胞の培養方法を確認し、細胞機能評価として、サイトカイン産生能を確認した。興味深いことに、レプチンは肺線維芽細胞のサイトカイン産生を、mRNA、タンパクレベルで増強した。今年度は初年度として、培養条件を確立し、レプチンの刺激濃度の至適化、レプチンの作用時間の至適化を行うために、ある程度の時間が必要であったため、大凡計画通りの達成度であると考えている。開始当初は、ヒト肺線維芽細胞のセルラインであるMRC-5細胞を用いることを試み、様々な実験器具、培地、条件を試してみたが、培養による細胞の成長が安定せず、サイトカイン産生能も安定しなかったため、NHLFを用いることにした経緯もあり、余計に時間を要した。 次年度以降は、レプチンがNHLFからのサイトカイン産生を増強する機序を明らかにする方針である。考えられる機序として、既報のレプチンレセプター、Ob-Rの関与が推測されるため、来年度以降にその発現レベルを確認し、その機能を解明する。来年度以降は、レプチンの濃度や作用時間等の条件設定が済んでいるため、比較的速やかに実験を遂行できるものと考えている。 引き続き臨床検体を用いた解析を行う方針としている。現在、当院倫理審査委員会で承認された研究計画書に則り、当院において外科医、病理医と共に、患者由来の肺構造細胞を集積している段階である。既に100症例以上の肺線維芽細胞を取得し、冷凍保存しているため、速やかに臨床検体の解析を行うことが可能と考えられ、大凡計画に沿ったスピードである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、レプチンによる肺線維芽細胞のサイトカイン産生能の亢進を認め、レプチンの至適濃度および至適作用時間を明らかにした。そこで、来年度は引き続きその機序の解析を進めたい。 まず、責任レセプターを明らかにするが、既報のレプチンレセプター、Ob-Rの関与が推測される。その発現をmRNAおよびタンパクレベルで解析し、さらにその中和抗体やSiRNAを用いて、レセプターを阻害することで、レプチンによるサイトカイン産生能に対する影響を確認する予定である。さらに、細胞内シグナル伝達物質のインヒビターを用いて、その責任分子を明らかにし、レプチン刺激による細胞内分子のリン酸化の有無をウエスタンブロット等で確認する予定である。 また、実際の手術肺から分離培養した肺線維芽細胞およびその患者由来の肺標本を用いた解析を行う予定である。具体的には、健常肺由来と喘息患者由来の肺線維芽細胞の、レプチンレセプターの発現レベルの差異をrealtime PCR、フローサイトメトリー、ELISA等で検討し、肺標本を免疫染色することで、局所におけるレプチンやレプチンレセプターの発現レベルの差異を検討する。 以上のデータが揃えば、速やかに学会や学術誌に報告を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究を実施するための、振込手数料・通信費等の諸雑費として見込んでいたが、振込先金融機関毎の手数料が相違するため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度交付額と併せて、当該研究にて使用する。
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