研究課題
間葉系幹細胞(MSC)は、酸化ストレス・小胞体ストレスの存在下、アシドーシス等の有害環境下でStanniocalcin-1(STC1)を大量に分泌する。MSCsが分泌したSTC1は周囲微小組織のミトコンドリア機能調整、抗アポトーシス作用、細胞周期の調整、カルシウムリン酸代謝の維持、初期創傷治癒シグナルの開始、マクロファージ機能抑制などの多彩な機能を持つ。STC1はブレオマイシン肺障害モデルにおいて、肺障害や肺の線維化を抑制することを我々は報告済みである(Mol Ther 2015, 23, 549-60)。さらに、我々は、HDAC阻害薬が強力にMSCsのSTC1分泌を促進することや、p53がSTC1分泌を促進することや、STC1が山中因子(Oct3/4、Sox2、Kif4、c-Myc)の発現をコントロールすることなどを明らかにし、STC1は幹細胞のStemness維持や、分化に強い直接的関与を及ぼしているとの仮説を立てた。メタボロームの解析では、STC1が細胞の代謝変容を通して、様々な遺伝子のメチル化に寄与することが示唆された。STC1が遺伝子のメチル化を介して細胞のStemness維持や分化にどのように関わるかを詳細に解析中である。阻害剤アレイにより、MSCsがSTC1を分泌するシグナル回路について詳細な検討を行った。その中で、特に、様々な成長因子(FGF2,TGFbeta、PGDF,EGF等)が関与するシグナル経路が、MSCsのSTC1を分泌に重要であることがわかった。さらにSTC1の分泌は障害肺での成長因子の分泌パターンに多大な影響を及ぼすことを明らかにした。成長因子は組織のSASP、すなわち慢性炎症に強く影響する。STC1が障害肺の中の様々な細胞の分化に及ぼす影響を解析するとともに、老化に伴う慢性炎症調整の機序についての解析を開始しているところである。
2: おおむね順調に進展している
東北大学呼吸器内科の他、東北大学呼吸器外科とも連携をとりながら実験を進めている。呼吸器外科の協力を得られる最大のメリットは、切除肺の中でおこっている現象を直接的に解析できることである。また、上記に記したように、メタボロームと阻害剤アレイを外部研究機関の支援を受けて、進めることができたことが、研究を順調に伸展させることとなった。以上より、本研究課題はおおむね順調に伸展していると考えている。
本年は、呼吸器外科の切除肺の中から、MSCsやマクロファージ、肺胞上皮細胞、線維芽細胞を分離し、解析に供する予定である。東北大学呼吸器外科は、肺移植にも取り組んでいるため、若年性に慢性肺疾患が進行した症例などがある。すなわち早老の状態にある肺の構成細胞を調べることが可能である。これらの疾病肺の構成細胞と自然気胸などで手術を受けた若年者肺の構成細胞を比較検討することで、今まで得てきた知見の裏付けをとることが可能と考えている。また、本年が最終年度であるため、論文化することを本年度の目標とする。
研究スケジュールの組み換えにより、来年以降に繰り越した研究計画があるため
本年度の研究計画および昨年度より繰り越した研究計画に全額を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件) 図書 (1件)
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