研究課題/領域番号 |
15K09216
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 征史 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378077)
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研究分担者 |
伊藤 理 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (60378073)
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (70467281)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肺癌 / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
がん細胞は、周囲からの物理的な力に対して特異的な反応性を有すると推測される。本研究では、がん細胞に対する物理的な力(メカニカルストレス)の解析により、がんの進展、転移のメカニズムの理解を深め、それを阻止する新たな治療戦略の立案を目的とする。 上記の目的のため、培養ヒト肺線維芽細胞、肺癌細胞株(A549 H460)、不死化肺上皮細胞(上皮細胞にCDK4、hTERT遺伝子を導入して作成)、KRASを遺伝子導入した不死化肺上皮細胞などの種々の細胞を作成、準備した。これらの細胞を、培養dish表面の弾性(2-50 kPa)をハイドロゲルにより調整できるPetrisoft (Matrigen 社 CA)で培養して、細胞増殖、細胞形態を検討した。肺線維芽細胞では、50 kPaに比較して、 2 kPaでは細胞の増殖能の低下や細胞形態(細胞面積 cell area, 周囲長 perimeter, 縦横比 aspect ratioなど)が変化した。さらに、ウェスタンブロット法や免疫染色においてα-SMA 蛋白発現ならびにアクチンストレスファイバー形成などの変化を認めた。 それらに比較して、肺癌細胞、不死化肺上皮細胞において、2 kPa の弾性の基質では、上記の肺癌細胞、不死化上皮細胞ではそれらの変化は認めなかった。がん細胞において、基質弾性の低下に関わらず、細胞増殖や細胞の機能を維持できることが示唆され、さらに低弾性(0.5 kPa)の基質における検討や低血清下での検討を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、細胞株に対して、伸展刺激の負荷、軟弾性の基質上の培養により、細胞の増殖能、Ca2+濃度や細胞骨格の変化などの形態学的な変化が生じるかを検討し、さらに細胞内のmRNA、マイクロRNAの発現や細胞外への情報伝達物質の分泌能を検討する計画であった。 しかしながら、培養ヒト肺線維芽細胞においては、弾性の変化により細胞増殖能やたんぱく質の発現レベルの低下を認めたが、癌細胞においては、増殖能の変化は軽微であり、形態学的に顕著な変化も認めなかった。当初の予想では、不死化肺上皮細胞株や上皮性の性質が強い肺癌細胞株において、線維芽細胞と同様な変化が生じると予想していたが、予想には一致しなかった。そのため、さらに培養条件(基質より軟性にする。培養液の血清の濃度を変化させる)を変化させて、癌細胞もしくは不死化細胞株の増殖が抑制を検討する。抑制タンパク質の発現パターンが変化する条件を模索する。 また、がん細胞にストレッチ(進展)刺激により、細胞内骨格、細胞内Ca2+濃度、遺伝子(mRNA,マイクロRNA)発現パターン、サイトカイン分泌、エクソソームの放出などの変化を検討する予定であったが、ストレッチ(進展)刺激を細胞に与える実験装置のセッティングに時間を要しており、担当する予定の協力者の不在などのため、癌細胞で検討が若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の問題の解決のために、使用する細胞株の種類を増やし、培養条件(低濃度血清の培地、増殖因子付加の培地)を変更して、基質の弾性度やコーティングを改良することにより、細胞の増殖能の差が検出できるようにする。その上で、癌細胞の周囲からの物理的な力に対して特異的な反応性を解明するために、細胞内骨格、細胞内Ca2+濃度、遺伝子(mRNA,マイクロRNA)発現パターン、サイトカイン分泌、エクソソームの放出などの変化を検討する予定である。 また、がん細胞にストレッチ(伸展)刺激を加える装置のセッティングがほぼ完了したので、当初の計画に従い、伸展により癌細胞の増殖能が変化するかどうかを検討する。さらに、そのメカニズムの解明のために、細胞内骨格の変化、mRNA,マイクロRNAの発現パターンの変化を解析する予定である。
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